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手のうち。 (「悪女入門」 ファム・ファタル恋愛論)


ほんとうは教えたくない。

この著者による『子供より古書が大事と思いたい』がとても痛快で
類書つながりで、発見した本。
あとがきによると、
女子大の(どうもモテない)教え子たちが
誘惑術を後天的に無理なく身につけられる(!)方法はないものか、と
フランス文学講義ノートを「悪女入門」、という観点から
書き直したのがこの本の原案だったとか。




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目次
第1講  「健気を装う女」 ― 『マノン・レスコー』
第2講  「脳髄のマゾヒズム」 ― 『カルメン』
第3講  「小娘」が化ける瞬間 ― 『フレデリックとベルヌレット』
第4講  「自らに恋を禁じたプロフェッショナル」 ― 『姉妹ベット』
第5講  「金銭を介した恋愛」のルール ― 『椿姫』
第6講  「ファム・ファタルの心理分析」 ― 『サランボー』
第7講  「悪食のファム・ファタル」 ― 『彼方』
第8講  「恋と贅沢と資本主義」の女神 ― 『ナナ』
第9講  「失われた時間」への嫉妬 ― 『スワンの恋』
第10講 「ファム・ファタルとは痙攣的、さもなくば存在しない」 ― 『ナジャ』
第11講 「『神』に代わりうる唯一の救済者」 ― 『マダム・エドワルダ』






しばしば、「運命の女性」とルビを振られる、ファム・ファタル(femme fatale)。

 「恋心を感じた男を破滅させるために、運命がおくりとどけてきたかのような
  魅力をもつ女」(本文より。著者によるラルース大辞典直訳)。

何もかも棒にふってしまうほどの「致命的・命取りの」女。
「破滅を招くほど魅力がある魔性の女」ということ。
ならばファム・ファタルと、単なる悪女と、あばずれとの違いは何か。
そのさじかげん、勘どころ、の
ようなものを軽妙に解き明かしてくれる。

ボーボワール風に言うと、
女性は生まれながらにしてファム・ファタルなのではなく、
ファム・ファタルになるのであり、
それは相手との関係性により、相対的に決まるのだという。
もちろん、女に魅入られた男のほうも
「マイナス無限大」へ堕ちていく落差が
大きくなければならない。
富や地位、能力といった価値が元々男になければ
ファム・ファタルの物語は始まらない。
ファム・ファタルはフランス社会がはぐくんだ
アンチ・ヒロインといっても良い存在なのだ。

ファム・ファタルの篭絡術、手練手管をひもときながら、
講談もかくや、というテンポの良い合いの手がはいる。
それでいて、タイトルだけは学校で覚えさせられる
フランス文学を題材に男女のさがを指南し、
はては近代資本主義のメカニズムをも解き明かす。


人の情欲は不変。
ゆえに、の愚行や煩悶、すれ違い、勘違いの数々が、
愛おしかったり、身につまされたり。

もっとコムスメの頃に読んで、たしなみとして
知っておきたかった。
いや、源氏の君にもタニザキのナオミ、にも
むしずが走っていた、あの頃じゃ、だめだった。
あまたの生き恥やしくじり、
悔恨の亡骸累々、たる
今だから、か。








(2010-B31-0409)





















悪女入門 ファム・ファタル恋愛論 (講談社現代新書)

鹿島 茂 / 講談社

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by office_bluemoon | 2010-04-10 00:15 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)