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シャネル三昧 『シャネル&ストラヴィンスキー』ほか二作


チェ・ゲバラしかり。ココ・シャネルしかり。
その生涯が闘いの連続であり、
過去を覆す者、としての孤独が深いほど、
映画の題材として好まれ、後世の人々に語り継がれていく。

2008年、ココ・シャネル生誕125周年の年に公開された
シャネルの伝記映画が三篇ある。
せっかくの競作、時間を置いてすべて観る。

見た順番は以下のとおり。

a) 『ココ・シャネル』 シャーリー・マクレーン主演
b) 『ココ・アヴァン・シャネル』 オドレー・トトゥ主演
c) 『シャネル&ストラヴィンスキー』 アナ・ミグラリス主演

女優冥利、の役どころ。
もちろんメゾン・シャネルの協賛によりビンテージドレスや
帽子、アクセサリーがふんだんに、効果的に登場。
眼を愉しませる演出には、どの作品も余念がない。

結論から言うと、最もストーリーの余韻が深く、
ココの美意識を再現した画像に手抜きがない、
それでいて安易な成功物語になるのを免れた点で、
『シャネル&ストラヴィンスキー』が白眉。

以下、備忘録を兼ねて、
それぞれ私感を箇条書きで。

***

a) 『ココ・シャネル』
成功の頂点を極めたシャネルが、死別した恋人、イギリス人貴族の
ボーイ・カペルとの日々を回想する。回想の語り手となる晩年のシャネル、
シャーリー・マクレーンの存在感は圧倒的。ただし、2時間弱でストーリーを
完結させるために、「だから今こうなりました」的説明に終始してしまい
大味になってしまった感も否めない。

b) 『ココ・アヴァン・シャネル』
修道院育ちの孤児がいかにしてココ・シャネルとなったか。a)がボーイとの
悲恋にのみ重心を置いているのと対照的に、最初の恋人、フランス貴族の
エティエンヌに囲われていた弱い立場から、
エティエンヌの友人ボーイとの出会い、
やがてデザイナーとして事業を成功させていくまでの
愛と自立の葛藤が中心。

説明的、という点ではa)と同じだが、回想手法をとっていない分、
シャネルが直面する危機に観客が一体化しやすい。マクロ視点ではなく
ミクロに、ディテールにこだわりながら物語が進行していく。

階級社会の壁に幾度もつぶされそうになってもめげない姿は
あの名作少女マンガ『キャンディ・キャンディ』を彷彿とさせた。
『アメリ』のオドレー・トトゥ、コケティッシュなシャネルを好演。

c) 『シャネル&ストラヴィンスキー』
成功してからのシャネル。作曲家ストラヴィンスキーの才能に注目し、
経済的支援をしつつ、 道ならぬ恋に落ち、やがてシャネルが身を引いていくまで。

二人が互いに惹かれあい、才能を開花させ、やがて離れていかざるを得なかったところに
フォーカスしきっている分、進行がすっきりとしている。
シャネルの功績については香水シャネル五番にのみ絞っているのも潔い。
あとは徹底したアールデコのインテリア、まとう衣装だけで、
彼女の当時のスタイルは
雄弁に語られている。これ以上は説明不要。

現代に置き換えたとしても稀有な、自立した美しき女性。この自立を支える強さは、
才能を、本物を見抜く直感への自信から。シャネルの奔放さの原動力は
インスピレーションを御せる者ゆえの傲慢さであり、その存在感は
ストラヴィンスキーを軽々と凌駕している。恋の高まりを
シャネル五番の香りに昇華し得たシャネルに対し、
ストラヴィンスキーの創作活動はいったんは熱情を帯びるものの、
想いを秘めとおす冷静さをやがて保てなくなる。
シャネルの一挙手一投足に翻弄され、家族や協力者をも失いそうになる。
国を捨てた音楽の革命児ですらも、苦悩する弱き男として描く容赦なさが、
この映画に夢物語では終わらない深みとリアリティを加えている。

煎じ詰めると、自立していさえすれば、男女の関係に主従はなくなる。
先にこの恋から立ち退くのを選べたシャネルの強さ。
その孤高な後姿は
観る者に長く余韻と美しい影を永く残す。

主演のアナ・ミグラスは現在のメゾン・シャネルのミューズ(モデル)でもある。
迷いのなさ、とは、もうそれだけで美しい。












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by office_bluemoon | 2010-11-07 21:44 | Life is Cinema (映画)