第5回 Book club 議事録 (『グロテスク』 そして、『アフォリズム』)
課題本:"Grotesque" Kirino Natsuo (『グロテスク』 桐野 夏生)
今回は読書会→バックギャモン→ジャズライブ、という趣向に。
出席者(office_bluemoonのほかに):
Steve, Charlie, Monica。
今回office_bluemoon友人 Robertが初参加。
* また、この日の参加者以外にも、友人たち4名
が同時進行で本作品を読んでいた
(英語版・日本語版いずれか好きな方で)。コンタクトの取れる者同士、
メールで意見交換していた。ご協力、示唆に富む洞察に深く感謝、である。
主な意見:
- 読了者3名、最後まで読み終われなかった者、2名。
読み続けることのできなかった理由は、暗すぎること、
主人公にエンパシーを感じられなかったこと、too muchと感じたこと。
- 「あまりにも美しすぎる」妹が娼婦になる必然性に説得力がない。
また、姉の性格の暗さには救いがない。
- 実際にあった事件のセンセーショナルな要素を
盛り込み過ぎたのでは?オウム真理教のエピソードにからめた
設定もいきすぎ感が否めない。
- 文学の使命が人に希望を与えること、なのだとしたら、
あまりにも物語に救いがなさすぎてどうかと思う。
他の作品でも(『アウト』)、同じことを感じた。
- 日本の社会では混血の子供に生まれることが、それほどの葛藤を生むことなのか?
→ 世代と、両親の国籍の組み合わせ、その土地柄による。
女子の方が反発は大きいかもしれない。
- 中国人を下に見た記述が唐突で根拠に乏しく、アンフェアに思えた。
- ほんとうに『男はみんなブタ』なのか?(!)
- その一方で、学園生活、良家の子女の通うエリート校の実際を描く筆致の生々しさ、
不穏で微妙な空気感を再現し得た取材の綿密さには驚愕。この作品は、
文学作品としては意見の分かれるところだが、ルポルタージュ的側面だけ見たら
取材力・描写力は秀逸であるのは確か。
* この日説明しきれなかった office_bluemoonの私感2点。覚え書きとして。
1.売れる本イコール、センセーショナルな本ではない、という理由から、
当初本書推薦を憚ったが、多数決で今回の課題図書となった経緯があった。
冒頭部分を読んだ時点でのメンバーたちの反応は非常に好感触だったが、
読了後の意見がネガティブなものに終始してしまったのは、やはり、というべきか。
にもかかわらず、単なる作品批判で終わらず、
文化的背景の異なるメンバーから意見が飛び交って、
批判ではあっても学びが多く気持ちの良いディスカッションだったのが嬉しかった。
良識ある書友に恵まれて幸せである。
2.実はこのタイトルは示唆に富む。”grotesque”とは、単に凄惨な、おぞましい、という
ほかに、「異形(いぎょう)」と言う意味がある。一見、この物語の主人公はハーフの姉妹に
力点が置かれているように見えるが、実は、階級・人種といった壁に隔てられ、
同化を許されない(する必要はないのだけれど)、
排斥されてしまう「異形」なる者たちを描きたい、という著者のたくらみではないか。
次回 課題本について:
Monicaがラテン文学を紹介する番。
Robertのサジェスチョンを得ながら決定とのこと。
会食メニュー(持ち寄り形式):
季節の野菜 しらすゆずドレッシング和え
Chilaquiles con Salsa Verde
プッタネスカ(娼婦風パスタ)
キール(白ワイン+カシス)
SteveとRobertからの
とっておきの赤ワイン
(右上がChillaquiles)
バックギャモン:
一戦一敗
(もっとじょうずになりたい!)
食後、海沿いレストランのジャズライブへ。
会場で別の知り合いも合流し、10数名でテーブルに。
顰蹙ギリギリまで大騒ぎをしても追い出されなかったのは、
店の懐の広さか、Steveが常連だったおかげか、それとも...?
気炎を吐いた友人の手が滑り、
生まれて初めて
赤ワインを頭から浴びる。
あまり関係ないかもしれないけれど、
『Copacabana』の歌詞が頭をよぎった。
(でも、お店のみなさん、ほんとうにごめんなさい。
嬌声をあげていたのはわたしではないけれど)
Robertから満を持して、の近著をいただく。
「ドブの中から星を眺めるための」525の格言を集めた、
『アフォリズム』。
構想は40年余。
当初100で納めるはずが、一年以上かけて
執筆している間に500を超えてしまった、とのこと。
その場でいくつかピックアップしたものを読んでいただいて、
即席朗読会に。
読んだフレーズに対して、やんやとはいる
突っ込みや野次もまた愉し。
セレクション基準は以下の7つ(本書『前書き』より):
- 短いこと
- パーソナルであること
- 限定的であること
- 哲学的であること
- ひねりがあること
- ウィットのあるもの
- 説教臭くないもの
まず最初に原文、日本語訳、そして
適宜解説が寄りそっている。
バイリンガル表記は、
どう訳すかのお手本を見られて
嬉しい。
私が大好きなヘミングウェイの『移動祝祭日』で
最も大切に思っているくだりが前書きに引用してあった。
文章を書く者としての覚悟と、矜持を示してくれた一節。
嬉しいサプライズ。
ページをいったん閉じて感興にひたる。
なんびとも、奪うことができない
思想と知恵がある。
路傍に立ちつくしたとしても、
貧しくとも、
ひとりぼっちに思えても。
行く先を照らしてくれる、
叡智の断片たる
ことばたちと機知。
それでいて、
よこしまなこころ。
だから人間はいとおしい。
この先傍らに常に置き、行きつ戻りつし、
読み終えたくない本になること、間違いない。
12月8日発売です。
今回は読書会→バックギャモン→ジャズライブ、という趣向に。
出席者(office_bluemoonのほかに):
Steve, Charlie, Monica。
今回office_bluemoon友人 Robertが初参加。
* また、この日の参加者以外にも、友人たち4名
が同時進行で本作品を読んでいた
(英語版・日本語版いずれか好きな方で)。コンタクトの取れる者同士、
メールで意見交換していた。ご協力、示唆に富む洞察に深く感謝、である。
主な意見:
- 読了者3名、最後まで読み終われなかった者、2名。
読み続けることのできなかった理由は、暗すぎること、
主人公にエンパシーを感じられなかったこと、too muchと感じたこと。
- 「あまりにも美しすぎる」妹が娼婦になる必然性に説得力がない。
また、姉の性格の暗さには救いがない。
- 実際にあった事件のセンセーショナルな要素を
盛り込み過ぎたのでは?オウム真理教のエピソードにからめた
設定もいきすぎ感が否めない。
- 文学の使命が人に希望を与えること、なのだとしたら、
あまりにも物語に救いがなさすぎてどうかと思う。
他の作品でも(『アウト』)、同じことを感じた。
- 日本の社会では混血の子供に生まれることが、それほどの葛藤を生むことなのか?
→ 世代と、両親の国籍の組み合わせ、その土地柄による。
女子の方が反発は大きいかもしれない。
- 中国人を下に見た記述が唐突で根拠に乏しく、アンフェアに思えた。
- ほんとうに『男はみんなブタ』なのか?(!)
- その一方で、学園生活、良家の子女の通うエリート校の実際を描く筆致の生々しさ、
不穏で微妙な空気感を再現し得た取材の綿密さには驚愕。この作品は、
文学作品としては意見の分かれるところだが、ルポルタージュ的側面だけ見たら
取材力・描写力は秀逸であるのは確か。
* この日説明しきれなかった office_bluemoonの私感2点。覚え書きとして。
1.売れる本イコール、センセーショナルな本ではない、という理由から、
当初本書推薦を憚ったが、多数決で今回の課題図書となった経緯があった。
冒頭部分を読んだ時点でのメンバーたちの反応は非常に好感触だったが、
読了後の意見がネガティブなものに終始してしまったのは、やはり、というべきか。
にもかかわらず、単なる作品批判で終わらず、
文化的背景の異なるメンバーから意見が飛び交って、
批判ではあっても学びが多く気持ちの良いディスカッションだったのが嬉しかった。
良識ある書友に恵まれて幸せである。
2.実はこのタイトルは示唆に富む。”grotesque”とは、単に凄惨な、おぞましい、という
ほかに、「異形(いぎょう)」と言う意味がある。一見、この物語の主人公はハーフの姉妹に
力点が置かれているように見えるが、実は、階級・人種といった壁に隔てられ、
同化を許されない(する必要はないのだけれど)、
排斥されてしまう「異形」なる者たちを描きたい、という著者のたくらみではないか。
次回 課題本について:
Monicaがラテン文学を紹介する番。
Robertのサジェスチョンを得ながら決定とのこと。
会食メニュー(持ち寄り形式):
季節の野菜 しらすゆずドレッシング和え
Chilaquiles con Salsa Verde
プッタネスカ(娼婦風パスタ)
キール(白ワイン+カシス)
SteveとRobertからの
とっておきの赤ワイン
(右上がChillaquiles)
バックギャモン:
一戦一敗
(もっとじょうずになりたい!)
食後、海沿いレストランのジャズライブへ。
会場で別の知り合いも合流し、10数名でテーブルに。
顰蹙ギリギリまで大騒ぎをしても追い出されなかったのは、
店の懐の広さか、Steveが常連だったおかげか、それとも...?
気炎を吐いた友人の手が滑り、
生まれて初めて
赤ワインを頭から浴びる。
あまり関係ないかもしれないけれど、
『Copacabana』の歌詞が頭をよぎった。
(でも、お店のみなさん、ほんとうにごめんなさい。
嬌声をあげていたのはわたしではないけれど)
Robertから満を持して、の近著をいただく。
「ドブの中から星を眺めるための」525の格言を集めた、
『アフォリズム』。
構想は40年余。
当初100で納めるはずが、一年以上かけて
執筆している間に500を超えてしまった、とのこと。
その場でいくつかピックアップしたものを読んでいただいて、
即席朗読会に。
読んだフレーズに対して、やんやとはいる
突っ込みや野次もまた愉し。
セレクション基準は以下の7つ(本書『前書き』より):
- 短いこと
- パーソナルであること
- 限定的であること
- 哲学的であること
- ひねりがあること
- ウィットのあるもの
- 説教臭くないもの
まず最初に原文、日本語訳、そして
適宜解説が寄りそっている。
バイリンガル表記は、
どう訳すかのお手本を見られて
嬉しい。
私が大好きなヘミングウェイの『移動祝祭日』で
最も大切に思っているくだりが前書きに引用してあった。
文章を書く者としての覚悟と、矜持を示してくれた一節。
嬉しいサプライズ。
ページをいったん閉じて感興にひたる。
なんびとも、奪うことができない
思想と知恵がある。
路傍に立ちつくしたとしても、
貧しくとも、
ひとりぼっちに思えても。
行く先を照らしてくれる、
叡智の断片たる
ことばたちと機知。
それでいて、
よこしまなこころ。
だから人間はいとおしい。
この先傍らに常に置き、行きつ戻りつし、
読み終えたくない本になること、間違いない。
12月8日発売です。
by office_bluemoon
| 2010-12-06 23:16
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