『フランキー・マシーンの冬』
ゆえあっての課題図書、あと2タイトル。
ぴかぴかのキッチンに立ち、イタリア歌劇を口笛で吹く
65歳のロングボーダー、フランク・マシアーノは
元イタリアン・ファミリーでかつて
フランキー・マシーン(機械)と恐れられた殺し屋だった。
こんな、個人的に捨て置けないプロファイルの
主人公が活躍する。『犬の力』のドン・ウィズロウの最新作。
今年の翻訳ミステリー大賞候補作。
マフィアの抗争、賭博、酒、麻薬、売春、ポルノ、
裏切り、汚職、密告者、政治…
マフィア物語に必要なアイテム『全部のっけ』と言ってもいいほど
すべてが盛り込まれている。
加えて、ところどころに映画『ゴッドファーザー』の名セリフが
散りばめられていて、「カピーシ?(『わかってんだろーな、おめえ』?)」の
連呼にはニヤニヤ笑いを禁じ得ない。
報復や裏切りが網の目のように張り巡らされたスケールも、
前作『犬の力』よりは掌握しやすいスケール。著者自身も遊び心を持ち、
肩の力を抜いて書いたのでは、という印象を受ける。
「自分流で生きるのは骨が折れる」の一文で始まる
主人公のフランクの行動美学がキャラクターを際立たせている。
思えば、ハードボイルドは美学・流儀を通す男たちの物語では
なかったか。すわ新ヒーローの登場か、と胸躍らせながら読んだ。
惜しむらくは。まことに、しんそこ惜しかったのが、
サーファーであるはずのフランクの言葉が、海のこと、
サーフィン用語となるとぎこちなかったこと。
それから、イタリア語のルビが若干怪しげであったこと。
『サーフィンの名所と穴場』→ 『ポイント』
『ハンギング・テン』→『ハング・テン』(足の指10本をすべて、
ボードの先端にかけて直立すること。有名なポロシャツの足跡マークもこれにちなむ)
『水を掻き』→『パドルし』
『順番待ち』→『波待ち』
『波の砕ける』→『波のブレイクする』
『終わらない夏』→映画『エンドレス・サマー』とかけているのだから、
ルビ処理をして作者の意を汲んであげたい。
『サルシッチェ』→『サルシッチャ』(イタリア料理の腸詰)
『スパゲッティ・アラマトリチャーノ』→『スバゲッティ・アマトリチャーノ』 などなど。
本筋には影響のない細部かもしれなくても、こうすることで
文章が俄然ナチュラルに流れて行くのに。
ちょっとサーフィンを知っている人や
サーフィン雑誌を読めばいわば業界用語はわかるはず。
一般読者を優先して日本語が説明的になり、
サーファーらしさが損なわれてしまった。
そんな細部が気になって仕方がなかった。
これ以外の部分は
不案内な領域から出てほっとしたかのように
翻訳がなめらかになるだけに、
ほんとうにもったいない。
他山の石としたい。
いや、フランクならさしずめこんなことで目くじら立てる私に
こういうのかもしれない。
『年季の入った男は、妥協の美しさを知る』、と(98ページ)。
まだまだはねっかえりだな、ベイビー。とかなんとか、
ハスキーな低い声で、ね。
(2010-B16-0304・2010-B17-0306)
by office_bluemoon
| 2011-03-07 00:51
| こんなもの、読んだ(本・雑誌)