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book club 視察 (@下北沢)

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翻訳仲間の兼ねてからの誘いで
イギリス人のPaulが主催する読書会に
オブザーバーとして出席。
通常は土曜日に開かれているセッションを
特別に水曜日にも、と調整してくれた。

英語で運営されているほかの読書会では、
どのようなスタイルで進行しているのかに
ずっと興味があった。

Paulはこのパブのあるじ。
まず、圧倒的な蔵書量に店に一歩入って、
声をあげた。
すべて洋書。

「これ、全部読んだの?」
「いや、お客さんが置いていってくれるんだよ」
「Paulは謙遜しているよ」、と横から
参加者のScottが茶々を入れる。



課題本は、Kazuo Ishiguroの
An Artist of the Floating World。 

ぜひ、読みたかったし、
意地を張ってないで、日本語版を読めば良かったんだけど、
いきがって買った原書を読了できないまま、席に着く。

日本人友人とPaul、Scottの会話をずっと聞いている。
書架は見掛け倒しでなく、Paulが実に桁外れの読書家で、
軸のある意見を持ちながら、他人の意見に対してオープンであることに
感嘆。やっぱりもうひとがんばりして、読んでおけばよかった、と後悔。
Scottも、会話が活性化するような質問を折々に挟む。
ファシリテーションがほんとうに真摯で上手だなぁ、と感心する。

黙っていては申し訳ないので、Kazuo Ishiguroのほかの作品に
共通して見られることへの私感をときおり、発言する。
あと、時代背景を確認するのに、i-padを取り出し検索、などで
お役に立てたくらい。ゴジラ映画が最初に世に出たのはいつか、とか。

日本人友人も、事前に自分の言いたいことをまとめていて、
丁寧に伝えようとしていた。彼女らしい。
ほんとうに準備周到なのだ。ふだんの授業でも質問が的確だし。
それを誠実に受け止めて、議論を運んでいる三人のやりとりに
とても好感が持てた。


議論が終わり、雑談の時間になり、
好きな作家や、作品論について1時間ほど四方山話を。
あぁ、ほんとうにわたしはまだまだなんだなぁ、と
そのまま座っていたソファに沈み込みそうに恥ずかしくなり、
(あらためて)知見の狭さを思い知る。
無知の知、といっても、知らないことには変わりはない。
これほど語れるだけ、まだまだ読めていないと思う。

いつもの読書会友人たちと嗜好が違うから、
私の好きな作品への批評も、新鮮。辛辣だとしても、
作品へのレスペクトと確たる根拠が挙げられているから、
頑なな判定をくだすわけではない
フェアな議論は気持ちがいい。

一点。翻訳の役割、について、
「ほんとうに忠実に訳せていると誰がわかるんだ?」という議論は
もっと続きを聞きたかったし、私見をもっと的確に説明できたら、と
悔いが残る。

「そんなに大変でわりがあわないなら、自分で小説を
書いた方がいいんじゃない?」という
Scottのことばも、胸にコトリ、と響く。

そう、確かに労多いのだ。
それでも、これだ、と思える訳語を見つけたとき(カチリ、とわかる)の
悦びといったら、
なにものにも替え難いことを
うまく伝えられず、歯痒かった。

途中、来店する本好きで英語ができるお客さんも
そばで私たちに耳を傾けている、オープンな空気感が
心地良く肌になじんだ。
去りがたくなる温かさがこの場にはあった。

本が好き、というだけで、
つながれることに満足しないで、そこから何を語れるか、が
大事、と痛感。

また、作品を本として世に送り出すということは、
こういった人々の批評に耐えるということ、とあらためて実感。




近々、ローカルの読書会にもフィードバック予定。
誘ってくれた、
やはり寝食忘れて本好き、翻訳好きの
友人に心から感謝。



p.s. 紫煙ゆらめくパブで、ギネスとハイネケンに挟まれながら
オレンジジュースのソーダ割りで通した自分をとても褒めてあげたい。
by office_bluemoon | 2011-11-17 12:21 | Book club 議事録