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短編映画を11本

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作家の真価は短編小説にこそ、表れる。制約があるなかで、
説明すること、しないことについて、取捨選択を迫られるからだ。
映画だったら、どうなのか。

そのこたえを知りたくて、友人4人で短編映画を観にいく。
場所は横浜のブリリア・ショートショート・シアター

短編映画に特化したこのミニシアターの、システムがユニーク。
チケットを購入すると、60分のプログラムが見られる。1つのプログラムには、
15分~20分で完結する作品が3本か4本入っている。今回は、春先に開催されていた
『ショートショート・フィルムフェスティバル&アジア2015』受賞作特集AとBのほかに、
『フレンチロマンスショートフィルムプログラム』もあった。この日のプログラムを
3つとも選ぶと、短編映画を11本も観られる。

ほんの20分ごとに、まったく違う世界に問答無用で放り込まれる感覚が、
新鮮。プログラムごとの入れ替え制であるため、AとBの間と、
フレンチ特集が始まる前に席をいったん立つ。暗いシアターから明るいロビーに戻るたびに、
全身運動をした後のような心地よい疲労感で、ソファーにへたへたと座り込んだ。

20分というのは絶妙な時間。肌の合わない世界観だとしても、このくらいの時間ならば、
覚悟して身を浸していられる。反対に、ひとたび心掴まれると、20分以内で
語られたことの多さに驚く。

制約があり、抑制を利かせた中で語られるストーリーでは
「説明し過ぎない」技量が問われる。
エンディングの解釈が観るものの裁量に任されている作品は、
ディスカッションを生んでくれる。
映画閲覧後は、食事の席で賑やかに感想や意見を交換。ひとりで見ていたら
気づかなかったであろう視点や、解釈を教えられるのも、また愉しく。
1日にこれほど多くのドラマを他人と共有できるとは。長編では果たしえない、
貴重な映画鑑賞体験となった。

記憶のまだ新しいうちに走り書きメモ。カッコ内は製作国と上映時間。


<Short Shorts Film Festival & Asia 2015 受賞プログラムA>

『キミノモノ Cloudy Children』(イラン 18:04)
目に入るすべてのものを「自分のもの」だと言い張り、争う少年2人のある1日。
見るからに何にもない土地の、映像の色彩が美しい。小さい子の「泣き」と、
すべてにおいて支配的だった少年の気持ちの変化が、胸を打つ。

『蛍のいる風景 BRILLIANT DARKNESS: HOTARU IN THE NIGHT』(アメリカ 12:03)
蛍を語ることで、浮き彫りになる夜の暗さ。あの幽玄の世界を日米の蛍学者が
交互に語る。つい先月まで森や田畑に分け入って蛍を追っていた
個人的体験と重なり、映像美と共感しやすかった。「ほたる」とはもともと、
「星」の光が「垂れて」見えるほど空高く舞っていたから、「ほたる」と
名付けられたのだそう。

『ベンディート・マシン V - 引金を引け!Bendito Machine V - Pull the Trigger』(スペイン 11:54)
紛争に巻き込まれてしまった異星人を定点で観察し続けた作品。せりふのない
アニメーション。なのに、11作品の中で一、二を争うほど印象に残った作品。
アニメの底力を思い知る。この色使いのセンスは、日本の作品にはないのでは。

『しおり SHIORI』(日本 09:59)
事故で記憶をなくした彼のために、しおりをはさんだ文庫本を手渡し続ける、彼女。
テンポのよい展開にコメディーだと思い込んで観ていると、
最後に背負い投げを食らう。その不意打ちにまんまとやられ、鑑賞後仲間と
語り合うまで私はオチに気づけなかった。不覚。

<Short Shorts Film Festival & Asia 2015 受賞プログラムB>

『私の大好きな樹 Once Upon a Tree』(オランダ 14:40)
大好きなオークの木に寄り添う少女。木を中心になされる生態系の映像が美しい。
森林伐採に警鐘を鳴らす。エンディングはちょっと覚えていない。

『こころ、おどる -Kerama Blue-』(日本 19:58)
タイトルを観て、今回最も観たかった作品。慶良間島に降り立った
日本語の話せない日系米国人の妻と、フランス系米国人とおぼしき、
異文化に不寛容な夫。英語のまったく話せない島の青年とおばあ。
双方の会話がかみ合わないままドラマが進行していくのだが、
コメディーとアイロニーが絶妙な匙加減で混ざり合う。タイトルに恥じず
美しい慶良間の海。遠い昔に訪れた浜が登場し、身を乗り出して観たあっという間の20分。

『父親 Father』(チュニジア 18:00)
タクシードライバーのエディは、ひょんな親切心から産気づいた妊婦を
病院に送り届ける。それをきっかけにほころびを見せはじめる、人生。過去。
後味の悪いハプニングが重なっていくのだが、不条理の中からエディが決意したことを
最後に知らされたときに、タイトルの意味がずしん、と胸に響く。色調も美しかった。


<フレンチロマンスショートフィルムプログラム>


『ムーンライトセレナーデ Moonlight Serenade』(9:25)
10分足らずの間に交錯する、あまりにも多くの悲喜こもごも、そしてアバンチュール。
鑑賞後、友人が「すべてのことに自分の欲望が優先しているところが
フランスらしい」と言ってのけた。フランス映画をそれほど観たわけでもない私が言うのもなんだが、
まったくもって同意。ラストシーンでクローズアップされた
二人の微妙な表情の変化には、どんなにことばを尽くしても
表現できないことがこめられている。あのシーンは何秒間あったのだろう。これぞ、映画の真骨頂。

『虹のふもとで Follow the Rainbow』(5:10)
モノトーンのパリに、虹がかかる。その虹のふもとに、愛しいいあの人がいる。
大人の恋愛絵本のように、美しい映像。残念ながら、オチを覚えていない。。

『僕は鉛筆削り屋 I'm a Sharpener』(16:17)
「鉛筆削り屋」という商売がある、という前提がまず、シュールで、阿部公房や
ポール・オースター的。風貌からして鉛筆っぽい(!)青年が、きっちりと
スーツを着こなして、日々、カリカリと鉛筆を削る。クライアントの筆跡から
そのパーソナリティや気持ちに応じる削り味を探り当てるのが、彼の仕事。
映像の色調も、カメラワークも、音楽も秀逸。

『さよなら、メランコリー Bye Bye Melancholy』(22:05)
雑貨屋ではたらく二人の男女と、救急車を運転する女。パリ祭の日に織り成される、
三人の男女のドラマ。夜空に上がる花火と、取り返しのつかない悲しみの深さの
コントラスト。悲しみによって悲しみが癒される。そんなことが、人生には確かにある。
by office_bluemoon | 2015-07-17 11:29 | Life is Cinema (映画)