office bluemoon

カテゴリ:翻訳シャドーボクシング(試訳)( 7 )

"The Long Goodbye"から - 5

f0205860_11442447.jpg





前掲“dream”のくだり、「夢の女」、という処理でよいのか、と
逡巡からその後も逃れられなかった。
先日の部分から少し進めて読んでも、
依然としてチャンドラーは”dream”を使い、
”dream girl”や、”dream woman”とは決して言っていない。
この点を尊重して、また、不定冠詞"a"に注目して
やはり「まぼろし」、でいい、と覚悟を決める。

修正。

bluemoon訳:
年配のバーテンダーがそばを通りかかり、薄くなった私のスコッチの水割りに
そっと目を向けた。
私が首を振り、彼が白くふさふさとした頭を軽く下げたちょうどそのとき、
ひとつのまぼろしがバーの入り口に立ち現れた。

前の記事 

***

これを踏まえて、続きの場面。世の中にはいろいろなタイプのブロンドがいる、と列挙する
痛烈でクールなメタファー(比喩)に続く、こんな独白。

The dream across the way was none of these, not even of that kind of world. She
was unclassifiable, as remote and clear as mountain water, as elusive as its color.
I was still staring when a voice close to my elbow said:


清水俊二訳:
向こうの端の”夢の女”はこれらのどの種類の金髪でもなかった。山にわきでる泉のように澄んでいながら、
その色のようにとらえどころがなく、分類することがむずかしかった。私のひじのすぐそばで私の呼びかける
声が聞こえたとき、私はまだ女の方を見つめていた。

村上春樹訳:
私の筋向いに座っているその夢のごとき女は、どのタイプとも違っている。それらの女たちが属してる
世界とは、世界の成り立ちそのものが違っていた。彼女を分類することは不可能だ。彼女は山間の清水の
ように遥か遠くにあり、クリアだ。そしてその髪の色合いと同様に捉えがたい。すぐそばで
声が聞こえたときにも、私はまだそちらに見とれていた。

Office_bluemoon訳:
いま、通路の向こう側にいるまぼろしは、このどれとも、世界中のどの金髪とも違っていた。
どんなタイプにもあてはまらない、湧き水のように気高くて透明感があるが、髪の色同様、とらえどころの
ない女だった。私のほうに身を寄せて話しかける声が聞こえるまで、私は彼女から目をそらすことが
できずにいた。


***

この時点で相当疲れ果てていたマーロウが
これほどうろたえる、というのは
どれだけの美女なのだろう、と読者も固唾をのむ、

本作品のハイライトのひとつ。
無造作な箇所などひとつもない、
精緻で美しいシーン。
[PR]
by office_bluemoon | 2012-10-10 11:59 | 翻訳シャドーボクシング(試訳)

"The Long Goodbye"から - 4

f0205860_11214987.jpg



文学史に残るバーの名場面、もうひとつ。
13章から。少し長いです。
(ややもすると退屈かと思います。ごめんなさい!)


ホテルのバーで人を待つマーロウ。
20分経っても依頼人は現れず、
一杯目のスコッチの水割りもなくなりかけている。
30分経っても来なかったら帰ろう、と
心に決めたときに、運命の女性がバーに入ってくるくだり。

この場面のポイント:

バーでクライアントを待つ、という退屈な状況が、
女性の登場で一変する。
この場面だけ、地の文体と比べてピッチがあがり、
息せききるようなリズムに変わる。
いつもの冷静な客観性を失う。
「美しい」という直接表現を一度も使わずに、
女性の佇まいと、周囲の気配を述べるだけで
彼女の美しさを描写できていることに注目。
できるだけ、原文のカンマとピリオドを
活かして訳すこと。特に女性の服装と容姿に関する描写。

リズムが変わる合図となる女性の登場は、
原文では"a dream walked in."としか書かれていない。
a dream=女性であるとは、この文では説明されていないのだから
「ちょうどそのとき、ひとつのまぼろしがバーに現れた」、くらいに
してもよいのかもしれないけれど、
どうしてもそこまで思い切れなかった。
これでいいんだ、と言いきれるだけの
スタイルと勇気が必要。

読者に親切に、が翻訳の鉄則と教えられた。
実際、巨匠ふたりは、ここでスパン、と女性の登場、しかも美しい、と
種明かししている。

しかし、初めてこの箇所を読む英語の読者も、
次の文に進むまでは、"dream"が女性のこととはわからず
一瞬混乱するのだから、ほんとうは原文にない言葉を
日本語で補わなくてもよいのかもしれない。



清水 俊二 訳:
 としをとった給仕がそばを通りかかって、残り少なになったスカッチと水をながめた。私が頭をふり、
彼が白髪頭をうなずかせたとき、すばらしい"夢の女"が入ってきた。一瞬、バーの中がしずまりかえった。
活動屋らしい男たちは早口でしゃべっていた口をつぐみ、カウンターの酔っ払いはバーテンダーに
話しかけるのをやめた。ちょうど、指揮者が譜面台をかるくたたいて両手をあげたときのようだった。
 かなり背のたかい、すらりとした女で、特別仕立ての白麻の服に黒と白の水玉のスカーフを
頭にまいていた。髪はおとぎばなしの王女のようにうすい金色に輝いていた。頭にかぶった帽子の中に
金髪が巣の中の小鳥のようにまるまっていた。眼はめったに見かけないヤグルマソウの花のような
ブルーで、まつ毛は長く、眼につかないほどのうすい色だった。向こうの端のテーブルまで歩いていって、
白の長手袋を脱ぎ始めると、さっきのとしよりの給仕が私などは一度もされた覚えのないいんぎん
(傍点)な態度でテーブルをひいた。彼女は腰をおろして、手袋をハンドバッグのストラップにはさみ、
やさしい笑顔で礼をいった。笑顔があまり美しかったので、給仕は電気に打たれたように緊張した。
女はひじょうに低い声で何かいった。給仕はからだをまげて、急いで出ていった。人生の一大事が
起こったような急ぎ方だった。
 私はじっと見つめた。彼女は私の視線をとらえて、眼を半インチほどあけた。私はもうそっちを
見ていなかった。しかし、どこを見ていたにせよ、私は呼吸(ルビ:いき)をのんでいた。

村上 春樹 訳:
 年配のバーテンダーが通りかかり、薄くなった私のスコッチの水割りをちらりと見た。私は首を振り、
彼は白髪頭を縦に振った。まさにそのとき、夢かと見紛う美しい女が店に入ってきた。一瞬、まわりの
物音がすっかり消えてしまった。やり手の男たちは忙しく張り切るのをやめ、カウンターの酔客は
あてもないおしゃべりを中断したみたいだった。指揮者が譜面台をタクトで叩き、両腕を宙に静止させた
ときのように。
 女はほっそりとして、ずいぶん背が高かった。高級な仕立ての白い麻の服を着て、白と黒の水玉模様の
スカーフを首に巻いていた。髪はおとぎ話に出てくる王女を思わせる淡い金髪だった。小さな帽子を
ちょこんとかぶり、淡い金髪がそこに巣の中の小鳥のように収まっていた。
瞳は矢車草のブルー、あまりない色だ。まつげは長く、見えるか見えないかというくらいの
ほのかな色をしている。彼女は通路の向かい側のテーブルに行って、肘まで隠れる
白い長い手袋をとった。年寄りのウェイターが彼女の
ために恭しくテーブルを引いた。私がウェイターにそんな立派なテーブルのひき方をされることは
きっと死ぬまであるまい。彼女は腰を下ろし、バッグのストラップに手袋をはさみ、ウェイターに微笑みかけ、
礼を言った。混じりけのない優しい微笑みで、ウェイターはあやうく全身麻痺に陥りそうになった。ひどく
小さな声で彼女は何かをウェイターに告げた。彼は前屈みに急ぎ足で去っていった。重大を使命を
与えられた密使のように。
 私はじっと見ていた。その視線を彼女が捉えた。でも彼女が一センチばかり視線を上げると、私の
姿はその視野から滑り落ちた。しかし何はともあれ、私はとにかく息をのみっぱなしだった。

office bluemoon試訳:
 年配のバーテンダーがそばを通りかかり、薄くなった私のスコッチの水割りにそっと目を向けた。
私が首を振り、彼が白くふさふさとした頭を軽く下げたちょうどそのとき、夢のような女がバーの
入り口に現れた。大口をたたきあっていたやり手の男たちも黙り、カウンターにいた酔っ払いも
とめどなく愚痴るのをやめた。その瞬間、バーの物音がかき消えたように思えた。まるで指揮者が
タクトで台を叩いて両手を宙に挙げ、構えたかのようだった。
 ほっそりとした、ずいぶんと背の高い女だった。あつらえた麻のスーツを着て、黒と白の水玉模様の
スカーフを首に巻いていた。髪の色はおとぎ話のプリンセスを思わせる淡い金髪だった。頭の上には
小さな帽子を載せ、そこに淡い金髪を巣の中の鳥のように丸めてたくしこんでいた。
瞳の色は、矢車草のようなブルー。めったにお目にかかれない色だ。まつげは長く、
あまりにもはかなげだった。女は私と通路を挟んだ反対側のテーブルにたどりつくと、
肘まで隠れる白い手袋を脱ぎ始めていた。くだんの老バーテンダーは、うやうやしく、
女のためにテーブルを引いた。私がバーでこれほど丁寧に扱われることは、この先死ぬまで
ないだろう。彼女は椅子に腰をかけ、手袋をバッグのストラップに挟み、この上なく
優しく微笑みながらバーテンダーに礼を言った。その笑顔があまりにも清らかで、
彼はほとんど気絶しそうになった。女はとても低い声で彼に何かを告げた。
バーテンダーは前のめりになって、慌てて立ち去っていった。重大な使命をさずかった男、といった
風情だった。 
 私はじっと見つめていた。女は私の視線をとらえた。女がほんの1センチほど
視線をそらしただけで、私はそこにいないのも同然になった。しかし、彼女の視界に
入っていようといまいと、私は息を呑んだままだった。




原文:


 The old bar waiter came drifting by and glanced softly at my weak Scotch
and water. I shook my head and he bobbed his white thatch,
and right then a dream walked in. It seemed to me for an instant that there was
no sound in the bar, that the sharpies stopped sharping and the drunk
on the stool stopped burbling away, and it was like just after the conductor
taps on his music stand and raises his arms and holds them poised.
 She was slim and quite tall in a white linen tailormade with a black and white
polka-dotted scarf around her throat. Her hair was the pale gold of a fairy princess.
There was a small hat on it into which the pale gold hair nestled like a bird in its
nest. Her eyes were cornflower blue, a rare color, and the lashes were long and
almost too pale. She reached the table across the way and was pulling off a white
gauntleted glove and the old waiter had the table pulled out in a way no waiter
ever will pull a table out for me. She sat down and slipped the gloves under the
strap of her bag and thanked him with a smile so gentle, so exquisitely pure, that
he was damn near paralyzed by it. She said something to him in a very low voice.
He hurried away, bending forward. There was a guy who really had a mission
in life.

 I stared. She caught me staring. She lifted her glance half an inch and
I wasn't there any more. But wherever I was I was holding my breath.

[PR]
by office_bluemoon | 2012-10-03 11:34 | 翻訳シャドーボクシング(試訳)

"The Long Goodbye"から - 3 (Ev'ry Time We Say Goodbye)

f0205860_8352979.jpg






The Long Goodbye (レイモンド・チャンドラー作)の中に登場する
名台詞のひとつ。ただし、歌詞(原文にはフランス人のことば、とある)の引用。
マーロウがこの台詞を独白するまでの設定が
また究極にしびれるハードボイルドなのだけれど、
これは手ごわいのでまだ先の宿題。


Everytime we say goodbye,
I die a little.


さよならをいうのはわずかのあいだ
死ぬことだ。
(『長いお別れ』 清水俊二訳)



さよならを言うのは、
少しだけ死ぬことだ。
(『ロング・グッドバイ』 村上 春樹訳)



さようならを言うたびに、
少しだけ息が止まる。
(bluemoon試訳)


うーん、この前の文脈がないと、やはりどれもすわりが悪いように思う。



たぶん、この歌詞の一節でもある。
コール・ポーター作曲。
チェット・ベーカー、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンス
エラ・フィッツジェラルド、ナタリー・コールのテイクも有名。





[PR]
by office_bluemoon | 2012-09-04 08:37 | 翻訳シャドーボクシング(試訳)

"The Long Goodbye"から - 2

f0205860_9213945.jpg




しょうこりもなく、
"The Long Good Bye" Raymond Chandlerから。

世界一好きなバーの会話のあとには、
実はこんな台詞が続く。
この部分も含めてしびれているのだけれど、
解釈に自信がなくて、それはそれは長いあいだ
手をつけずにいた。

短いのに、
深い含蓄とキレのある機微。
これは、清水俊二巨匠に軍配がどうしてもあがる。
"The second is intimate"、を「ずっとしたくなる」
と訳してしまうなんて、
いったいどんな恋をしてきたの?、と唸ってしまう。


主人公の探偵、フィリップ・マーロウと
友人のテリー・レノックスが
バーでグラスを傾けている。
「彼」、はテリー。

“Alcohol is like love,” he said. “The first kiss is magic,
the second is intimate, the third is routine.
After that you take the girl’s clothes off.”



清水 俊二 訳:
「アルコールは恋愛のようなもんだね」と彼はいった。
「最初のキスには魔力がある。二度目はずっとしたくなる。三度目はもう
感激がない。それからは女の服を脱がせるだけだ」

村上 春樹 訳:
「アルコールは恋に似ている」と彼は言った。
「最初のキスは魔法のようだ。二度目で心を通わせる。そして三度目は
決まりごとになる。あとはただ相手の服を脱がせるだけだ」

office bluemoon 訳:
「酒は恋愛と似てる」とテリーはいった。
「最初のキスは魔法だ。二度目は、ぞっこんになる。三度目になると、
上の空でもできる。そうなると、あとは服を脱がせるしかない」






ひゃくまんがいち、こんな場面にまきこまれてしまったら、

1) ふきだす
2) いちもくさんに逃げる
3) こうさんする

のいったいどれをやらかせば?








BGM:
"Kissing a Fool"    Michael Bublé


[PR]
by office_bluemoon | 2011-12-22 22:44 | 翻訳シャドーボクシング(試訳)

be hard, be gentle.

f0205860_05816100.jpg





"If I wasn't hard, I wouldn't be alive.
If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive."


- Playback by Raymond Chandler


最近、ここいちばん、のときに
幾度となく胸の中で唱えているこの一節。
あまたの名訳があるけれど、
私だったら、なんて訳そう。

これが、チャンドラーの遺作となる、
フィリップ・マーロウ最後の事件
(絶筆となった『プードルスプリングス物語』は未完)。
そのせいか、心なしか、マーロウに元気がない。
前の事件で彼の元を去った女性の残像が随所にある。

(資料が手元にないため、以下、wikipediaより引用)

作中のヒロインから、
「あなたの様に強い(hard)人が、どうしてそんなに優しく(gentle)なれるの?」と問われた
マーロウ。


清水俊二訳:
「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」

生島治郎訳:
「タフじゃなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格はない」

矢作俊彦:
「ハードでなければ生きていけない、ジェントルでなければ生きていく気にもなれない」



office_bluemoonの今の気分の試訳:

「タフじゃなければ、生きていられない。
そもそも優しくなれなかったら、生きている資格すらない」






ハードボイルドとは、痩せ我慢の美学、とみたり。

言われてみたい、というより、
そんなひとになりたい、と
近頃、痛切に思う。

しっかりしよう。
軸をもとう。
[PR]
by office_bluemoon | 2011-11-12 23:47 | 翻訳シャドーボクシング(試訳)

"Hard-boiled - An Anthology of American Crime Stories"

f0205860_8234412.jpg




 ハードボイルド、というジャンルがアメリカで誕生してから70年(本書刊行当時。
2011年現在、90年余になる)。
 その歴史を時系列に追い、短編を集めたアンソロジー。

 以下、前書きから抜粋、抄訳。
 ハードボイルドの様式美、みたいなもの。

***
 ハードボイルド・クライム・ストーリー(ハードボイルド犯罪小説)が内包する要素とは。

 混乱、不信、不満がテーマ。ヒーロー・ヒロインたちは、政府や権力におもねず、
一匹狼で、はみ出し者。皮肉がちな理想主義者。
 社会は腐敗していると思いながらも正義を信じ、時にはそれを
みずからまっとうしようとする。

 事件そのものや事件の脅威よりも、人の背負う業(ごう)のようなものや
日々の営みに根ざす問題や葛藤が、物語の軸。書かれた時代、舞台となる場所の
土地柄とそこに根ざす人々が正確、かつ率直、リアリスティックに描かれている。

 ことの顛末には常に、社会・政治や道徳的な価値観、規範が反映されている。

 エンターテイメント性だけが、その存在価値(レゾン・デートル)とはならない。

 暴力事件を描いていても、動機なき暴力や快楽のための暴力は決して行使しない。

 どれだけ厳しく、残酷で卑猥であっても「生きた人々が生きた言葉を話し」(ベンジャミン・アペル)、
「怖れの香り(smell of fear)」(レイモンド・チャンドラー)のようなものがほのかに
漂っていなければならない。

***
[PR]
by office_bluemoon | 2011-08-17 08:19 | 翻訳シャドーボクシング(試訳)

"The Long Goodbye"から -1

f0205860_18532269.jpg






もう、100回以上読み返していると思う。
文学史に永遠に残る、酒場の描写。

原作第4章の冒頭。私立探偵フィリップ・マーロウと
テリー・レノックスが、夕方まだ早い時間に
<ヴィクターズ>のカウンターに並んでグラスを傾けている。
これは、テリーの台詞。

“I like bars just after they open for the evening. When the air inside is still
cool and clean and everything is shiny and the barkeep is giving himself
that last look in the mirror to see if his tie is straight and his hair is smooth.
I like the neat bottles on the bar back and the lovely shining glasses and the
anticipation. I like to watch the man mix the first one of the evening and
put it down on a crisp mat and put the little folded napkin beside it.
I like to taste it slowly. The first quiet drink of the evening in a quiet bar ― 
that’s wonderful.”
"The Long Goodbye" - Raymond Chandler



清水俊二訳:
「ぼくは店をあけたばかりのバーが好きなんだ。店の中の空気がまだきれいで、
冷たくて、何もかもぴかぴか<「ぴかぴか」に傍点>に光っていて、
バーテンが鏡に向かって、ネクタイがまがっていないか、髪が乱れていないかを確かめている。
酒のびん<「びん」に傍点>がきれいにならび、グラスが美しく光って、客を待っている
バーテンがその晩の最初の一杯をふって、きれいなマットの上におき、折りたたんだ小さな
ナプキンをそえる。それをゆっくり味わう。
静かなバーでの最初の静かな一杯―こんなすばらしいものはないぜ」

村上春樹訳:
「夕方、開店したばかりのバーが好きだ。店の中の空気もまだ涼しくきれいで、
すべてが輝いている。バーテンダーは鏡の前に立ち、最後の身づくろいをしている。
ネクタイが曲がっていないか、髪に乱れがないか。バーの背に並んでいる清潔な酒瓶や、
まぶしく光るグラスや、そこにある心づもりのようなものが僕は好きだ。バーテンダーがその日の
最初のカクテルを作り、まっさらなコースターに載せる。隣に小さく折り畳んだ
ナプキンを添える。その一杯をゆっくり味わうのが好きだ。しんとしたバーで味わう
最初の静かなカクテル―何ものにも代えがたい」


office_bluemoon試訳2011年版:
「僕は夕方に店を開けたばかりのバーが好きだ。空気はまだひんやりと澄み、
どこもかしこもぴかぴかで、バーテンダーは鏡に姿を映してネクタイは曲がっていないか、
髪は乱れていないか最後にもう一回チェックしている。カウンターの背後に
整然と並んだボトルと素敵に光るグラス、そして予感めいた気配が好きだ。
その夜最初のカクテルをバーテンダーが作ってぴんとしたコースターの上に置き、
小さくたたまれたナプキンをその脇に添えるのを見ているのが好きだ。その一杯をゆっくりと
味わうのがいい。その夜最初の静かなカクテルを、静かなバーで飲む。最高だね」
[PR]
by office_bluemoon | 2011-06-14 19:06 | 翻訳シャドーボクシング(試訳)