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『吉行 淳之介 エッセイコレクション1 紳士』

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事情あって、
吉行淳之介をひもとかなければならなくなった。

小説はちょっと敷居が高く感じられて、
まずは随筆集を選んだ。
シリーズその1は『紳士』。
ダンディズム道。
遊び百般(ノム・ウツ・カウ)の心意気。
面白かった。

ジョギングをする小説家が主流にすらなりつつある現代。
だが、いわゆる破天荒で自堕落なくては
作家の估券にかかわる、といった
時代がたしかにあったし、それはそんなに遥か昔ではない。
たとえば流行歌で、女性を『あなた』じゃなくて、
『おまえ』と呼んでいた時代。

字面で出会う分には、痛快で洒脱なろくでなし。
せっかく乗ったグリーン車に隣り合わせてしまったら、
かなりの確率で鬱陶しいKYなおぢさん、になってしまうのかも。

紙面越しで面白がれるので、幸い。
呑みの席は手ごわ過ぎて
お呼びではないだろうけれど、
ギャンブルでの
打打発止(ちょうちょうはっし)は
ちょっと覗いてみたかったりもする。


『ひと言でいうなら、男の優しさとは、熊の掌でもあろうか。
熊は日本列島に棲息している獣の中では最も強い。
にも拘わらず、熊の巨大な掌は、非常に微細なところまで
撫でわけるデリケートな能力を持っている。
だから、男が真に優しくなるためにはまず
熊のように強くならなければいけない。といっても、
強くなろうと鍛錬しても決して強くはなれない。』
 - 本文「やさしさ」より


もてた秘訣はこのへんの矜持にあるのか。

『男と女』、『作家』、『トーク』と続くシリーズも
読んでみることに。














(2010-B13-0227)






吉行淳之介エッセイ・コレクション 1 (ちくま文庫)

吉行 淳之介 / 筑摩書房

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by office_bluemoon | 2011-02-28 07:06 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)

『ジュリー & ジュリア』

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「料理とブログ」という二つのキーワードから
こんなストーリーが生まれた。しかも実話。

アメリカ人なら誰でも知る、という
「アメリカの料理の母」ジュリア・チャイルドの半生と
ニューヨークで暮らす地味な料理好きのOLジュリーの人生が
ブログでクロスする。

冴えない毎日を送っていたジュリーが、
敬愛するジュリア・チャイルドの本に載っている
524のレシピを365日で作り、
それをブログで日々、公開していくことをある日思い立つ。

かたや、1960年代のジュリアの来歴も同時進行する。
食べることが大好きだったけれど
料理があまり上手とは言えなかった
外交官夫人ジュリアは、
パリで食の楽しさに目覚め、コルドン・ブルーでの修行を経て
英語版のフランス料理大全とでもいうべき
“Mastering the Art of Cooking”をものす。
たびかさなる夫の転勤中もその情熱を絶やすことなく
出版にまで漕ぎつける。

ブログ愛読者が増えて行くにつれて、
ジュリーの人生が確実に変わっていく。
良いことばかりではない。
ブログは評判を呼び、ジュリーは全レシピを見事制覇し、
マスコミの寵児となる。
目には見えない読者やメディアに振り回されてしまうが、
大切にしなければいけないこと、
ジュリアをレスペクトする気持ちには
嘘偽りがないことを再確認できた
ジュリーの表情は、自信に充ち溢れていて美しい。


通底するメッセージはこれに尽きる。
夢中になれることをひたむきに追いかける姿は
共感を呼び、感動を与える。

何かにまっしぐらにつき進めることも、
ひとつの才能なのである。



これを最後に書くのももはや陳腐だが、
大柄で、気のいい、不思議なイントネーションの
英語を話すジュリアを演じきったメリル・ストリープの
女優魂に唸る一作、またひとつ。





* ジュリー のブログ。いかにもブログ黎明期、といった
感ある体裁。
私のPC環境では料理写真が写らないのだけれど、
実際に写真なしでこれだけ熱狂を読んだのだとしたら、
本当にすごいと思う。

2004年8月、ジュリアの逝去でブログは幕をおろしている。


http://blogs.salon.com/0001399/









(2010-C3-0122 )





























ジュリー&ジュリア [DVD]

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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by office_bluemoon | 2011-02-27 11:39 | Life is Cinema (映画)

『南極料理人』

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雪に降り籠められた日にたまたま観た。
究極の巣ごもりだ、と思った。

これほどまでに護られて
管理された、単調な隔絶環境はそうそうない。
日本からは14,000km、昭和基地からも1,000km離れた
南極観測基地ドーム富士に赴任した料理人の
究極の単身赴任の一年半。

ウイルスすらも繁殖できない、氷点下54度という
条件では、お湯の沸点が低いため、
インスタントラーメンの麺が
思うように茹であがらない。
夥しい量の保存食品を日本から持ち込んで
在庫管理し、計画的に消費していく。
野菜はすべて冷凍。
スプラウト類のみ、保温機で栽培に成功。
これが貴重なビタミン源になる。

そんな場所で食するお握り、豚汁、ステーキ、
麺から打ったラーメン、フレンチのコースを巡る
料理人の創意工夫と愛情がテーマ。
8人の隊員たちの悲喜こもごも、
精神的極限を
さまざまな形で食が救ってくれる。
多分にお手軽に戯画化されている
スラップスティック。
でも、対岸の火事として笑えない。

食事が人に滋養だけではなく、
心に活力と喜びを与える。
こんなシンプルなことが、
これほど研ぎ澄まされた環境を想像しないと
わかりにくくなっているかもしれない。
今いる日常はあまりにも安寧で、
雑多なノイズで満たされている。

ちょっと空腹になっても
コンビニに出かけ、
深く考えもなしに
カップ麺とプリンで
食欲を満たせるのが
あたりまえの日常だなんて
思った時点でもう、
感性が鈍ってしまっているのを
わきまえなければいけない。

つっかけで夜中に出かけて
唐揚げを、ラーメンを
苦労なく食べられることに、
言葉を失い、涙してしまう人もいるのだ。

作り手としても、供される側としても、
もっともっと日々、心して
「食」という行為に
向きあったほうがいい、と思った。

人気の堺雅人の演技を初めて見る。
確かに巧いかな、と思う。
それよりも、個人的にはドクター役の
豊原功補の演技から目が離せない。
ちょっとアブナイ、でも間抜けなインテリを
やらせたら、本当にこの人は異彩を放つ。

原作がベストセラーとのこと。
要チェック。








(2010-C4-0211)























南極料理人 [DVD]

バンダイビジュアル

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by office_bluemoon | 2011-02-26 10:41 | Life is Cinema (映画)

caged


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泣いているのは窓。
囚われているのはこころ。

時間はそんなのおかまいなく
ただ過ぎ去って行くだけ。
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by office_bluemoon | 2011-02-25 08:52 | 迷路に遊ぶ(おもふこと)

『ブエナビスタソシアルクラブ』

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これもずっと見そびれていた映画。

今でこそ
世界中の音源は机の前にいながらにして、
手軽に入手できてしまう。
キューバ音楽について情報の少なかった
20世紀末に観ていたら、
どんな感興を受けただろう。

ライ・クーダーとヴィム・ヴェンダースの
鉄壁コンビがキューバの老ミュージシャンたちに惚れこんで
日常の演奏からワールドツアーに立つまで(最後はカーネギーホール)を
追ったドキュメンタリー。
全編手持ちカメラで撮った映像が素朴極まりない
(そのあざとさを指摘されかねない節もなくはない)。
ヴィム・ベンダースの赤土感(?)、
ざらざら感が好きだったら、いいのだけれど。

70歳から90歳くらいの老ミュージシャンたちの、
艶に、まず目を瞠った。
階段を一気に駆け上るよりも、
踊り場ごとに立ち止まり、
立ち話を愉しんでいる。
そんな時間の流れ方。

修羅場に身を焼く。暮らしを嘆く。詩を吟じる。
人生のよしなしごとがすべて、
音になる。うたになる。

速さや簡便さ、即時性などに
価値を置かない生き方なんていくらだってある。

シンプルな「ひねもすのたりのたり」感が
音と一緒ににリフレインする。





(2010-C7-0222)












































ブエナ☆ビスタ☆ソシアル☆クラブ(フィルム・テレシネ・バージョン) [DVD]

バップ

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by office_bluemoon | 2011-02-24 09:09 | Life is Cinema (映画)

『落下の王国』

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此岸と彼岸、聖と俗、無垢と欺瞞。
森羅万象の相克、時間と空間のあわいからも
自由に解き放たれた物語には、力がある。
この力を信じて、
作る側も創造力の羽を存分に広げて
奔放に楽しむことに徹した、
映画への情熱と愛に満ちた作品。

CGを一切使わず、世界20数カ所でロケを敢行。
世界遺産13箇所を使った、カットひとつとて妥協のない
圧倒的な映像美。
石岡瑛子の手掛けたコスチュームが国籍や時代を自在に
乗り越えた唯一無二のファンタジーを
みごとに具現している。
コルベールを髣髴とさせる空間の捉え方。
絢爛たる物語絵巻に、
極彩色の蝶が、草花が、建造物や街並みが
大胆、かつ緻密にコラージュされていく。

挿入されるファンタジー映像の前に
霞んでしまいそうなストーリーも、
実は主題に忠実。
「たったこれだけ?」のために、
すべてを賭した人の
人生を悲惨だなんて誰が呼べるだろう。

しょせんすべて夢であるのなら、
起こることすべてに辻褄なんて
合わなくたって構わないはず。
そもそも、現実世界だって、
筋の通ったことは
多分に作為的であり、恣意的である。
衝動に、情動には理などはたらかない。

あさきゆめみしゐひもせず(浅き夢見し酔ひもせず)。

少女の見る夢は他愛がない、だなんて決めつけてはならない。








(2010-C6-0222)
























ザ・フォール/落下の王国 特別版 [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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by office_bluemoon | 2011-02-23 08:52 | Life is Cinema (映画)

holes


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世界じゅうの
そこかしこで開かれているパーティーを
外から窓越しに眺めている気がしてならない。

それでも、たったひとつでも、
待っていてくれているドアを信じて
蒼白い穴のあいた夜空を見上げ
ポケットの中でかじかむ拳を握り締める。
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by office_bluemoon | 2011-02-21 08:49 | 迷路に遊ぶ(おもふこと)

Addicted to Love/Harvest for the World (Robert Palmer, Power Station)

寝る前に保湿パックをした
まっしろけっけの自分の顔をみて、
思いだした、この曲のPV。

かくも怪しき仇花たちと、色男。








Robert Palmerといえば、このユニット。
Duran Duranよりも、Power Stationに夢中だった。

オリジナルのIsley Brothersを凌駕。
ゴリゴリのギター。ヘッドバンギング度200%。







2枚とも、捨て曲のない、
曲の並びまで計算され尽くした
手抜きないアルバム。











































リップタイド

ロバート・パーマー / ユニバーサル インターナショナル

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ザ・パワーステーション

ザ・パワー・ステーション / EMIミュージック・ジャパン

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by office_bluemoon | 2011-02-20 08:20 | 私的juke box(tunes)

『古書の来歴』 ジェラルディン・ブルックス

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いわゆる「見える」人に、出会いがしらに
こんなふうに告げられたことがある。
『あなたは遠い昔、イスラエルで幽閉されていました。
書くもの、読むてだてを奪われた生活の中でも、
あなたは闘っていました』
そのときは、
「そこでもやっぱり権力に楯ついて(?)
文字とかかわっていたんだ」くらいにしか
思わなかった。
だけど、この本を読んで、
比喩ではなく、書物を命がけで護り、
後世に残そうとした人々の辿った隘路を知り、
初めて既視感(デジャブ感)を得た。

どうがんばってもこの本のあらすじは
ここにある以上に上手にダイジェストできない。
今回に限りAmazonより転載。


***
まるで古書版CSI(科学捜査班)。
古書を科学捜査することで一つ一つの物語がたちあがってくる。
古書が記憶する五百年の歴史!
ミステリと歴史ロマンが結びついた秀作
――池上冬樹(文芸評論家)
(中略)
100年ものあいだ行方が知れなかった稀覯本
「サラエボ・ハガダー」が発見された――
連絡を受けた古書鑑定家のハンナは、
すぐさまサラエボに向かった。
ハガダーは、ユダヤ教の「過越しの祭り」で
使われるヘブライ語で
祈りや詩篇が書かれた書である。
今回発見されたサラエボ・ハガダーは、
実在する最古のハガダーとも言われており、
500年前、中世スペインで作られたと伝えられていた。
また、ハガダーとしてはめずらしく、美しく彩色された
細密画が多数描かれていることでも知られていた。
それが1894年に存在を確認されたのを最後に
紛争で行方知れずになっていたのだ。
鑑定を行ったハンナは、羊皮紙のあいだに
蝶の羽の欠片が
挟まっていることに気づく。
それを皮切りに、ハガダーは封印していた
歴史をひも解きはじめ・・・・。

異端審問、焚書、迫害、紛争――
運命に翻弄されながらも激動の歴史を生き抜いた
1冊の美しい稀覯本と、
それにまつわる人々を描いた歴史ミステリー。
***



所感:
時の権力が思想・宗教を隔て、
勢力地図を拡張し、境界線を引く。
白状すると、
こんな明確なことも忘れていた。
平和ボケしてしまっていることを悟った。
信仰や経典にまつわる確執を本当の意味では
わかっていなかった。
異端を退けるために、
どれだけの血が流されてきたのかに
あらためて唖然とした。

このタイムトラベルの導き手が、
稀覯本「サラエボ・ハガダー」。
この本から検出された
蝶の羽、ワインの染み、塩の結晶、
白い毛がフックとなり、この本がたどった
運命がひとつひとつ紐解かれていく、という
ストーリー展開。

職人技術を身につけることで、
母親からも、男性からも自立を図ろうとする
主人公ハンナがミステリーハンターとなる。
そこに、彼女の出自の秘密、
内観・葛藤・成長が綾を織りなしていく。

リサーチに基づく綿密な歴史考証、
製本の技術、学芸員の専門知識、
いずれも入念であるのは、
ボスニア、ソマリアなどで特派員を務めた
バックグラウンドを持つ
ジェラルディン・ブルックスの
緻密で力強い筆力ゆえ。
ピューリッツア賞を受賞した『マーチ家の父』後の作品。
謎解きそのものの展開にちょっとまだ不慣れ感が
多少残るものの、
ジャーナリズムとクリエイティブライティングの境目で
これほど理知的で勇壮、かつユニークなストーリーテリングができる
新しい女流作家の登場、と確信する。

本書は本年度翻訳ミステリー大賞
最終ノミネート作品でもある。
大賞受賞、となったら、今後日本で出版される
翻訳クライムノベルや
ミステリーの潮流が変わるのではないか、と
期待している。

書籍の電子化が叫ばれ、
それに異議を唱える者ではない。
とはいえ、デジタル化によって失われる
質感すべてが本作品の神髄であり、
書物を愛する人々が
命を賭してまで護ろうとしたものの
大切な属性が
そこに凝縮されている気がしてならない。

どうか杞憂でありますように。
羊皮紙や紙で綴じられた
意匠美しき書物たちが、
1,000年あとの未来にも
ひとびとに届けられますように。









(2010-B9-0210)























古書の来歴

ジェラルディン ブルックス / 武田ランダムハウスジャパン

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by office_bluemoon | 2011-02-20 00:15 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)

『マーチ家の父』 ジェラルディン・ブルックス

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幼いころに親しんだ、『若草物語』。
スポットライトは四姉妹に当てられ、
善良なる一家の両親、特に父親はいわば
カーテン越しの影絵のような存在だった。
この作品では、この父と母、
マーチ氏とマーミーをステージの中央に連れ出した。
四姉妹は、
カーテンの後ろ側に追いやられた影絵になる。

南北戦争が国を二分していた。
従軍牧師のマーチ氏は、
泥を食むような思いを幾度となく重ね、
生活に困窮し、生命の危機にもさらされる。
理想を通すことの難しさ。
背負ってしまった罪の深淵に茫然とし、
無力感につぶれてしまいそうになってもなお、
娘たちのために高潔に生きようとする父と
一家を気丈に支えた妻マーミーから見た
いわば『裏・若草物語』。

本編の大きなハイライトとなるのが、
「登場人物を甘やかさない」(訳者あとがきより)
作者が新たに設けたキャラクター。
動乱と不条理が色濃いほど、
品位ある美しい黒人奴隷のグレイスの硬質な
黒真珠のような存在感が、精彩を放つ。

本作品ではシルエットになった四姉妹だが、
書簡から、両親の目線越しに、その姿は
読者には間接的に伝えられているものであっても、
姉妹のひとりひとりの個性はなお、くっきりとしている。
読者はあたかも、古い親友に再会したような
喜びを得ることができる。

清らか過ぎる、善人ばかりに見える『若草物語』に少しでも抵抗を
覚えた人には、こちらのほうがリアリティを感じられるはず。
酸いも甘いも多少はわかるようになった今、
こんな形でメグ、ジョー、ベス、エイミーに再会できるなんて。

大人になること、
世界は光だけで成り立っているのではないのを知るのも
決して悪いことばかりではない。



補足:
* ジェラルディン・ブルックスの作品を読むのは、
これが二作目。『古書の来歴』の余韻から、
まだ醒めやらず。咀嚼しきれず。
本作品でピューリッツァー賞を受賞した著者については、
また回をあらためて。二編とも、翻訳もまた素晴らしかった。

** 気性が荒くて男勝りで、でも繊細で
夢見がちな作家志望のジョー、がやっぱり一番好き!








(2010-B12-0218)





















マーチ家の父 もうひとつの若草物語

ジェラルディン ブルックス / 武田ランダムハウスジャパン

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by office_bluemoon | 2011-02-19 00:31 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)