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freedom

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繰り返し現れる場面がある。

波打ち際にいた。
夏も終わろうとする、人の少なくなった海水浴場。
それでも日差しは強かった。
左手には松林が見える。セミの声が聞こえる。
プールで泳げるようになったばかりだった。

歩いていけるくらいの距離の沖に立って、私を呼ぶ声がする。
ここまで泳いでごらん、とその人は言う。

プールとは違って、海の水に顔をつけるのはこわかった。
水の中で目を開けてみたけれど、塩水は驚くほどしみた。
目をつぶることに決めた。
海には波がある。
真っ暗な中で泳いでいると、いつもはできることができない。
息継ぎをしようとすると、水が口と鼻に入った。
息を止めて、クロールを続けた。
そろそろかな、と思う頃に足をつけて立った。
笑いながら手を広げて立つその人のところまで、まだ遠い。
息を整えてまた目をつぶり、顔を水につけた。

同じことを何度繰り返しても、差し伸べられた手に届かない。
ちょっと考えればわかることに気づくには幼すぎた。
私が泳いでいる間、その人は後ずさりをしていたのだから、
届かないのは当たり前だ。

浅瀬が終わり、足がつかなくなって焦るところから先の記憶はなぜか、ない。
溺れたわけではないのだし、追いついてもいないのだが、
この場面がどう収束したのかが、どうしても思い出せない。

泳ぎがうまくなれば、という願いからだったのだろう。
でも、少なくともこんなことでは、泳ぎはうまくはならなかった。
その腕に飛びつきたいのに、どうして私はそこまで行けないのだろう。
この場面を回想するたびに、
かすかなのだけれどまぎれもなく悲しい気持ちが今もこみあげる。


望むところまで届かないからといって、自分を責めてはいけない。
沖に向かって泳いでいくのはいつだって苦しい。
でも、いつ、どんな方向にどこまで泳ぐかは、自分が決めればいい。
正しいとか、間違っているとか、勝ちとか、負けとか、そういうことじゃない。

その苦しさは孤独なんかじゃない。
ひとりで好きなところに泳いでいける自由と引き換えにしていいことなんて何もない。
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by office_bluemoon | 2014-06-27 12:38 | ほんの習作(掌編・エッセイ他)

La lucciola



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蛍を追って、夜半の渓流に。

「あっ」と小声をあげたらこちらに向かってきて、
くるり、くるり。
はぐれた一匹同士がつがいになって、闇の奥へ消えていった。
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by office_bluemoon | 2014-06-21 09:59 | こころ、泡立つ(events)

6/20 Amazon でも販売始まります。


翻訳を担当させていただきました、『僕はウォーホル』、
森美術館のみの限定販売でしたが、
おかげさまで明日6/20からamazon でも発売開始になります。

『僕はダリ』、『僕はポロック』とそろい踏みで、
街の本屋さんにも並び始めたようです。

おついでがありましたら、ぜひご覧ください。


















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by office_bluemoon | 2014-06-19 21:46 | 訳書

a message


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「君以外の誰かになっちゃだめだよ」
というメッセージ。






























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by office_bluemoon | 2014-06-10 07:19 | 迷路に遊ぶ(おもふこと)

a stone

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その博物館には隕石があった。
大気圏に衝突した面には、無数の穴があいていた。
鉄を含んで黒光りする表面は冷たかった。

旅をした道筋、月日の長さを想像したら
鳥肌が立った。

太古の記憶をなぞるような雨の音が
窓からずっと聞こえていた。
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by office_bluemoon | 2014-06-07 21:52 | こころ、泡立つ(events)

こもれび

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湯治に。

のんびりと鳴くカエル。競うような、鳥たちのさえずり。
液晶の光に疲れた目のこわばりが、
薄暗がりの中で緩んでいく。

浴衣に着替えて畳の間に戻り、
置いてあった『サザエさん』を読み耽る。

これを三度繰り返す。
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by office_bluemoon | 2014-06-01 09:18 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)