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東京・江戸逍遥エッセイつながりで読んだ本

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江戸の名残や、昭和の東京が好きだ。
このつながりで、年初から読んだ本をここにまとめておく。

『隅田川暮色』芝木 好子
『ロゴスの市』で、日本語の会話の美しさが挙げられていた。現在は絶版となっていたので、
古書で求める。組紐職人の女性が主人公。震災前後の隅田川沿岸を中心とする東京の風情、
湘南・奈良に舞台を移したドラマに親近感を覚える。

『月島物語』 四方田 犬彦
ニューヨークではマンハッタン島に住んでいた著者が帰国して次に選んだ住まいが、
月島。小津映画に登場するような長屋暮らしを始めてみて興味が沸いた、
「島」から眺める東京の変遷。島だからこそ育むまれる才能と、気質、情緒が月島にもあるのだ。

『ひとり飲み飯肴かな』 久住 昌之
『ちゃっかり温泉』久住 昌之
この二作を読んでつくづく、自分は、日常空間の中のエスケープ時間が好きだ、と実感。
富と財を成すことよりも、気の向くまま空間と自由を泳げる暮らしがしたい、と子供の頃から
夢見続けて、今に至っているのかも。志が低いんだか、高いんだか。
『孤独のグルメ』井之頭五郎の語り口はここに健在。

『Tokyo 老舗・古町・お忍び散歩』 坂崎 重盛
テレビの飲み屋横丁探訪記にもよく登場する坂崎氏は、あのアルフィーの坂崎さんのおじ。
久住氏もそうだが、酒飲みでありながら、新しく訪れる土地や店への緊張感・気遣いのあふれる
エッセイは、ぐだぐだに呑んでいるのであろうが、読んでいてすがすがしい。

『東京ステーションホテル物語』 種村 直樹
今回の東京読書散歩のハイライトは、この本。
行幸通りから眺める東京駅の美しさは、
日本の宝だと思う。堂々と往来の多い場所にありながら、毅然とした矜持と親しみやすさが
絶妙にブレンドしているこのホテルのたたずまいが好きだ。
日本における駅直結ホテルが誕生した背景から、関東大震災・戦争を経て、
どのように建物と伝統が守られてきたかを初めて知る。
松本清張、川端康成、内田百閒、森瑤子、とこのホテルをこよなく愛した文士の
エピソードも事欠かず。文豪足跡マニアにはたまらない一冊となる。

『点と線』 松本 清張
『ステーションホテル物語』ゆかりの作品、ということで、恥ずかしながら人生初、の松本清張作品となる。
感想はこちら

『東京日記』 内田百閒
同じく、初めての百閒作品。漱石門下生、ということで勝手にイメージしていた作風とは
全然違い、驚く。丸ビルが忽然と消えているのに誰も気づかなかったり、
混線した電話から聞こえる声の持ち主の女が隣の公衆電話にいたり、
四谷見附あたりから無人の乗用車にぴったり横をつけられたり、
生前主人が貸した本だのレコードがお宅にまだある気がしてならない、と
未亡人が連日訪ねてきたり。
この時代で、このシュールさは、すごい。最後の数行でストン、と落とされたり、ぞわわ、とさせられる。
迫りくる、理不尽な恐怖のスケッチの達者さ、力の抜け具合は、流石。














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by office_bluemoon | 2016-02-20 20:37 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)

『点と線』 松本 清張

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このところ、東京・江戸のお散歩エッセイを続けて読んでいた。
たどりついたのが、東京駅。
それも鉄道ダイヤが鍵となるこの本。

初めての松本清張、息もつかせなかった。
湯船の中でパラパラとめくりはじめ、
手が止まらなくなってその晩のうちに読了。

社会派・文豪然とした風貌から、
もっととっつきにくい文体だと思っていたけれど、
良い方に裏切られた。
清張先生、ごめんなさい。勝手に先入観を持っていました。
ドラマと映画、観たかった。

こみ入った時刻表トリックもすらすらと読めてしまったのは、
ひとえに文章の巧さ。
変に純文学ぶらず、それでいてエンターテイメントとして
品格を失っていない。こういうポジションを目指したいと思った。

場面設定がこみいっているわけでもなく、変態が登場するわけでもなく、
惨殺っぷりがすごいわけでもない、トリック破りで勝負!の、
生一本の推理小説。

ポー、エラリー・クイーン、クリスティ、ドイル。
幼いころ、推理小説の謎解きに夢中になった頃を思い出した。
懐かしいなぁ。やっぱりいいじゃないか、こういうの。
丹頂チックとか、仁丹の匂いが漂ってきそうな
昭和のオジサンっぽい感じも、いい。

東京・江戸お散歩本については、またお宝を発見。
後日まとめることにする。

(2016_19)
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by office_bluemoon | 2016-02-09 09:53 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)

『謹訳 源氏物語一』 林 望

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読書会友人が今年決意した、『源氏物語』読破!という素敵な目標。
これに、便乗することにした。

何年生だか忘れたが、高校の古典の授業で一年間、この作品を精読した。正直言って、
この世界観は好きではなかった。いや、もっとはっきりいうと、虫唾が走るくらい嫌で、
「なんでいつも待つのは女なわけ?」とぷんぷんと怒っていた。
会えるの、会えないの、と男も女も優柔不断なのが耐え難かった。源氏と紫上のくだりにいたっては
小利口でモラルがちがちの女子高生だった自分は「破廉恥、ロリコン!」「粘着質」と
バッサリ切り捨てていた。

文句をいうわりには、テストに出るさわりしか読まなかった。その時からン十年経って、
それなりに角が取れた(はずの)自分が、この作品をどう感じるかが知りたくなった。
友人の読後に同じ本をお借りして、全巻読むことに決めた。
そういう強力な牽引力がなければ、この先も読まないだろうし。

現代語訳が数ある中で、友人が選んだのは、リンボウ先生こと、林望さんの手によるもの。
『謹訳 源氏物語』の第一巻(桐壺・帚木・空蝉・夕顔・若紫)を読了。

『さて、もう昔のこと、あれほどの帝の御世であったか......』(p.7)

まず、この訳、すばらしく読みやすい。よかった。これならば、挫折しなさそう。みやびさと気品を残しながら、
読みやすい日本語にする、という難行をさらりとやってのけている。登場人物たちのヴォイスが
身近に思えるから、現代の俳優だったら誰がぴったりか、なんてことを想像して
台詞やストーリーを追う余裕まである。今回は。

外国の人と話をしていて、彼らのほうがTales of Genji について、よく知っている場合がままある。
『色』の描写とその色が表象する世界観を絶賛する文献を読んだことがある。なるほど、と思った。
この点にも注目して読み進める。色もそうだが、着衣の表現が、つくづく、美しい。
やまとことばも、漢語の字面も、現代語のなかにあってもまことに美しい。
おかしな言い方だが、この物語を母国語として読めて幸せだ、と思った。

それにしても、一千年の時を越えても、恋のさや当ては変わらず。恋愛観がおおらかであっても、
制度や身分の制約の中に置かれ、ことさらに燃え盛る恋の炎。今だったら、わかる。
追えば逃げる、逃げれば追うの、機微。あぁ、ここをちゃんと読み込んでいたら、
唐変木でも朴念仁でも野暮天でもない、今とは全然違う華麗なる人生だったかもしれなかったのに。

第一冊目では、空蝉が印象に残った。懊悩の末、忘れられない女になることを選んだ
怜悧さ。しびれた。


写真は、出先の川辺で見つけた、梅。気合を入れて大作を読むときは、少し遠出することにしている。
明日はもう立春。
(2016_16)
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by office_bluemoon | 2016-02-03 15:33 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)

『夢をかなえるゾウ』 水野 敬也

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人とはかくも酔狂な生き物。
ひとりの知恵で生きるのがしんどくなったら、過去や同時代の賢人たちの
叡智をわざわざ引っ張ってきて、自分をあげたり、下げたり、したがるのだから。

現状の自分に喝!を入れてもらいたい、
精神的カンフル剤を欲しがる人はどんな時代でもあとを絶たないのだろう。
現状打破のためだったらお金を出すこともいとわない人が多いからこそ、
自己啓発本ジャンルの新刊は、いつでも活況だ。

大ヒットしている間には食指が動かなかったこの本
読書会友人の本紹介にそそられて、満を持して読むことに。

面白かった!
メインキャラクターのゾウの神様、ガネーシャが文中で種明かしするように、
これまでに出た古今東西の自己啓発のエッセンスを集めて再構成した、という
メカニズムだとしても、読ませるストーリー。
自分を変えたい!と切望する平凡なサラリーマンにガネーシャが与えた
最初の課題が『靴を磨くこと』とは、これいかに。
つかみ、最高。

「人が欲しがっているものを先取りする」
「一日何かをやめてみる」
「身近にいる一番大事な人を喜ばせる」などなど。
この字面だけ見たら、どれも当たり前で地味なことのだけれど、
だけど、全部実践できている人は、実は少ない。もし、すでにできていたら、
ツキのほうがほっとかないはず。

このゾウ、なぜか関西弁。ブッダとマブダチで、松下幸之助だの、
スティーブ・ジョブスだの、シェイクスピアを「くん」づけで呼ぶ。
こんなうさんくさい神様と主人公青年との会話は、
不良テディベアが主人公の映画『TED』を彷彿とさせる。
こんなトリックスターが家に欲しい、と思う人も多いはず。

「本気で変わろ思たら、意識を変えようとしたらあかん。
意識やのうて『具体的な何か』を変えなあかん。具体的な、何かをな」(p.124)

とりあえず、玄関にいつも置いてあるブーツ2足、ぴかぴかにした。

(2016#14)
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by office_bluemoon | 2016-02-03 15:17 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)