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ジャンルー・シーフ写真展  "Unseen & Best Works"




「秘すれば花、秘せねば花なるべからずとなり」


秘めるからこそ、花になる。
世阿弥は能の奥義をこう集約した。
説明しすぎると、そがれてしまうことがある。
想像力の余地を
見るものに残してこその花、と。

友人に薦められて訪ねた
ジャンルー・シーフの回顧展
"Unseen & Best works"。
孤絶しているのに
熱を帯びたモノクロームの世界。
極度の抑制の果てに漂う情感に、
世阿弥の言う「花」を見た。





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一時はマグナムにも
在籍していたジャンルー・シーフは、
やがて『ハーバース・バザー』や
『ヴォーグ』、『エスクワイヤ』など
華やかなファッション誌の世界を
活躍の舞台に選んだ。
モード業界が世界的に最も活況を呈していた頃。
新進気鋭の気風に満ちていた70年代から
80年代のパリとニューヨークのモードの断片を
中心とする作品群を見ることができる。

平日の人気が少ない会場で、
オリジナルプリントの前に立つ。
色彩を抑制すると、いやがおうでも
線と構図の大胆さが引き立つ。
被写体が作る影の刻印に眼が吸い寄せられる。
見るものは、
うつしみよりも強い、闇の磁力と向き合い、
絡めとられ、ときには抗うことを余儀なくされる。

そこには
体力と精神の軽微な消耗があり、
癒しなどといった
要素はあまりうかがえない。

影は、実像の一部を隠す。
隠されれば、知りたいし、追いたくなる。
気付いたときにはすでに、
魅了された囚われ人になっている。

きわみまで余分なものを排除する。
真髄はすべてあらわにしない、
「秘する」わざ。夜桜の魔性。
花のたくらみ。

いや、花がたくらんでいるのではない。
被写体を花たらしめているのはひとえに、
シーフの華麗なる謀略が
まんまと成功しているからだ。

モノクロームの世界でも、
とりわけ華やかなモード写真が背負う
「業(ごう)」の深さをふと、覗き込んでしまった。












ジャンルー・シーフ写真展 「Unseen & Best works」
東京都写真美術館 地下一階展示室
5月16日(日)まで
by office_bluemoon | 2010-04-03 16:15 | こころ、泡立つ(events)