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本と月と喪失、そしてゆで卵 (Paul Auster "Moon Palace" )


友人から、夢のように美味しい半熟卵を
作るコツを教えてもらった。
以来、嬉しくて、
よく真夜中に卵をゆでる。
そのたびに、思い出しているのが、
Paul Auster の"Moon Palace"。
翻訳も美しいので、和書でも洋書でも、
繰り返し読んでいる。

指の間から砂がこぼれていくような
とめどもない落下を、
とどめてくれるものは、何か。
何が自分を世界のすみっこ、
ぎりぎりのところから転げ落ちないように、
つなぎとめていてくれるのか。


このものがたりの中で確かなものといえば、
たぶん、本と月と喪失。

人生における喪失と愛は、
新月と満月のようにセットになっている。

「太陽は過去であり、地球は現在であり、月は未来である」
(柴田 元幸氏訳 ポール・オースター 「ムーン・パレス」 新潮文庫  144ページ)

よもや、という喪失。
それでも、のぼっていく月、つまり未来に向けるまなざし。

最後の血縁者、
伯父が残してくれたおびただしい数の蔵書、
それとゆで卵だけで生き延びようとした、
マルコの切実さ。
確かなものは、このふたつしかなくなってしまった
切実さが、喪失を冴え冴えと美しくする。
そのあとの幸福の日々をも美しく輝かせる。


世界は、美しい喪失のものがたりで満ちている。



失望や諦めの中にあっても、
私にとって切実なもの、を見据える。
元気なときは、なおさら。

切実なものを見失わないために、
決して手放してはいけない、大切なものがたり。









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(真夜中のふたつのゆでたまごが偶然、ハート型に見える!)



















ムーン・パレス (新潮文庫)

ポール・オースター / 新潮社

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by office_bluemoon | 2010-04-15 01:48 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)