『グラン・トリノ』
俳優としてのイーストウッド最後の作品、という
予備知識だけで観た。
まんまと泣いた。
演出も演技も巧かった。
でもやるせなくて、二度は観られない。
(註:おじいちゃんものに弱い。
笠 智衆が出てきただけで泣けて困ることがある)
現代アメリカ中西部を知らなくても、
悩める今のアメリカのモチーフが
きっちり詰め込まれている。
引退した白人の自動車工。老人の独り暮らし。
マイノリティがとってかわった住宅地。
人種差別、暴力、戦争の遺恨。キリスト教の限界。
車が象徴する栄華の過去。
老人は物質には不自由のない生活に倦み、毒づいてばかりいた。
少年は結束の固い一族の繋がりと、夢中になれるものが
見つからない未来をもてあましていた。
互いに欠けているものに引寄せられるように、
育まれた不器用な友情。
老人が少年に託したのは、
一番大切にしていた愛車グラン・トリノ。そして未来。
ハリウッド映画の定石ともいえる
マチズモ(男性優位主義)が鼻につく部分が
若干あれど、
イーストウッドの(前世期的遺物かもしれない)
ダンディズムのあらわれであるのなら、
仕方がないかなぁ、とも思える。
78歳の監督作品。
円熟ということばはまだ使いたくない。
まだまだ手練手管の余力を予感させる
映画人に畏敬の念を抱く。
78歳になっても、こんな世界を
自在に生み出せるのだとしたら、
40代でも、50代だってまだまだやれること、
あるじゃないか。
分別のあるふりをして
年齢なんかで夢を諦めるなんて、怠慢だ。
追記:エンドロールに流れる
イーストウッドとジェイミー・カラムのヴォーカルと歌詞が、
また憎い。
息子のカイル・イーストウッドがプロデュース。
(2010-C9-0227)
by office_bluemoon
| 2011-03-01 07:03
| Life is Cinema (映画)