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『陸軍士官学校の死』 

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ゆえあって、昨年出版になった翻訳ミステリーで
評判の高い作品を集中して読んでいる。
これも、第二回翻訳ミステリー大賞最終ノミネート作

時は19世紀初頭。かつては名うてのNY警官。
今は静かな隠居生活を送っていた
ガス・ランダーが、ウエストポイント陸軍士官学校で起こった
凄惨な殺人事件を追っていく。
本書で最も非凡なる点は、ガスの助手が若き日の
エドガー・アラン・ポーであること。
ポーの経歴であまり知られていない陸軍士官学校時代に
注目して、ポー像が新たに創りだされる。
また、文中のそこかしでポーの作品からの引用や、
登場人物が詩人ならではの大言壮語をふりまわすところが
(ポーの文体を似せている?素養があればわかるらしい)、
見せ場でもある。

この時代は苦手だなぁ、と思いつつ手に取ったが、
しだいに謎解きに引きこまれた。暗号が出てくるのも嬉しい。
この筆力があるのだったら、
何もこんな込み入った時代設定にしなくても、とも思った。
読者をびっくりさせる仕掛けが用意されているけれど、
映画『グラン・トリノ』をたまたま観た後だと、
よく使われる手なのかな、とちらり思う。
でも最後まで読ませる力がある。
良く書けている。翻訳も巧み。
それと内容とは関係ないけれど、
タイトルと装丁、悩ましかったのだと
思うのだけれど、私だったら、
違う風にするんだけどなぁ(原題:"The Pale Blue Eye")。

とはいえ、
このところ気になるのは、近年売れているミステリーの
殺しの描写、手口が人を驚かせることに懸命になるあまり、
ちょっと度が過ぎるんじゃないか、と思えること。
ベッドに馬の死体を隠していたあのマリオ・プーゾが
小僧のいたずらに思えるくらいだ。

あまりにも長きあいだ翻訳ミステリー小説から
離れていたこちらに、免疫力がなくなっているだけなのかも
しれないけれど。
今のところ殺戮シーンは、
苦手で苦手で息を留めて読んでいるのだ
(刺された、撃たれた患部が痛くなってくるのだ。こまった)。
要経過観察。

2006年CWA(英国推理作家協会)最優秀歴史ミステリ賞ノミネート作品
2007年MWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀長篇賞ノミネート作品



(2010-B14・15-0302)



























陸軍士官学校の死 上 (創元推理文庫)

ルイス・ベイヤード / 東京創元社

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by office_bluemoon | 2011-03-03 09:55 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)