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杜にあめ降る

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梅雨入り。台風も近付いている。
こんな日はきっとひとけも少ない、と見越した
天の邪鬼は外へ。

海沿いの道を通り、
思い立って弁天さまと稲荷へ立ち寄る。
平日でもめったにみられないほど、森閑としていた。
誰も歩いていない。
圧倒的な緑に注がれる雨の音は柔らかい。
その規則的な音を破るのは、自分の足音だけ。
傘をさして黙って歩いた。
雨の匂いに新芽と何かの花と線香の香りが交じっていた。
歩きながら瞑想しているようだった。
雨の日にだけ研ぎ澄まされる感覚があるような気がした。
時も場所もねじれていった。
記憶の奥のそのまた奥にある太古の、
遺伝子レベルと言ってもいいほどの
何かが微かに震えているような気がした。

今だったら、精霊が見える、と思った。
石灯籠の向こうを、キツネや夜叉が通っても
今なら幻覚だとは思わない。

幾重にも立ち並ぶ鳥居をかいくぐった奥には
石窟がある。
仄暗いその中で柄杓で水を掬い、
お金を洗うと
弁天さまの御利益があるという。
硬貨がいくつか洗い場の水底で鈍く光っていた。

そういえばうんと幼い頃に
ここにきた。
大人たちが洗っているのが
ほんもののお金なのかが知りたくて、
その硬貨を拾って洞窟の外で日にかざそうとしただけなのに、
親に叱られたのを突然思いだした。
何気なく盗んだと思われたのだろう。
「のんのさま(お天道さまのこと?)が見てるのよ」と
母はこういうときによく言った。



訪れた先で、目上の方に
ハンドメイドのバッジをいただく。
本物の枯れ葉の上に、”Save Energy”。
ほかでもない、今、
このメッセージをみんなが胸につけていたら、
面白いと思ったそうだ。
これほど有効なソーラー・システムはないのにね、と
笑いながら
胸に着けていたのをそのままくださった。

人の叡智をすべて集めても、
手のひらに乗せる一枚の葉っぱほどの命も作れない。

『山川草木悉有仏性』
(さんせんそうもくことごとくぶっしょうあり
- 森羅万象すべてに仏心がある)

それはそれは気の遠くなるほどの昔のこと。
仏さまがやってくる前、
この国にはやおよろずに神さまが宿っていた。
計り知れないものへの畏怖は儀式であり、
美徳でもあった。
その理(ことわり)を忘れたふるまいや思想を
勇気だなんて呼んだらいつだって、
のんのさまの罰が当たる。





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バッジはこちら、鎌倉のHand & Soulさんで購入できます。1枚500円、とのことです。 
by office_bluemoon | 2011-05-30 17:53 | ほんの習作(掌編・エッセイ他)