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『なぎさホテル』 伊集院 静

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15年ほど前のことだったと思う。
この作家が洋酒の新聞広告に
寄せていた短編を読んだ。

海の家の解体が始まる晩夏の浜のスケッチ。
300文字あまりでも
あの海だ、とすぐにわかった。
幼い頃から祖父母に手を引かれて
訪れていた、あの光と空気だった。
手帳に書き留めて、繰り返し読んだ。

この本が出るのを待ちわびていた。
伊集院静氏の自伝的随想。
なぎさホテルがあった海岸と、
何者でもなかった若き日々のこと。

どこの誰ともわからぬ若者に、
お代はいつでもいいですから、と
長逗留を薦めた支配人。
怒りと空虚と時間をもてあましていた。
高校以来読まなかった本を読み、海を眺め、
酒を飲む毎日。
やがて作家としての一歩を踏み出し、
女優の道を歩みだした女性と
七年余り身を寄せたこのホテルをあとにする。


潮騒や空を揺りかごに、まどろみながら
生きる時間があってもいい。
私は確かにそんなメッセージを
15年前、あの短編から受け取ったのだと思う。



































































なぎさホテル

伊集院 静 / 小学館

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by office_bluemoon | 2011-07-08 14:24 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)