人気ブログランキング | 話題のタグを見る

office bluemoon

Book Circle 議事録 番外編("Man on Wire")

Book Circle 議事録 番外編(\"Man on Wire\")_f0205860_7431981.jpg



人々が夢見た21世紀、は果たしてコインパーキングと、
チェーンのコンビニとコーヒーショップと
レンタルソフト屋ばかりの
均一な風景だったのか。

効率性を求めた果てに、
人も、社会も均質化していないか。
マニュアル化・機械化が進んだ挙句、
逸脱を排除することに、
アウトプットや発想の平坦化に
慣らされていないか。

費用対効果、ムダを極力排除して利便性を求めてなお、
閉塞感から逃れられないのは、なぜだろう。
その問いに対するひとつの解がここにあった。

1974年。
前年に完成した世界貿易センタービル(WTC)の
ふたつのタワーの間に綱を張り、
上空400メートルを8往復した挙句
逮捕されたフィリップ・プティはこう言った。

「なぜやったのかって?
その質問は、これで1000回目だよ。
短絡的な質問だよね。
壮大で謎めいたことに理由を問う実理性が、アメリカそのものだ。
やるのに理由がなんてないから、素晴らしいのに」


誰も考えもしなかった
とてつもないことを思いつき、実現させたいから、やる。
やってどうなる、なんて考えない。
ムダのない行為や、ムダのない人優位の社会を眼下に、
思いつきをアートの領域にまで高めて実現させた
男と仲間たちの軽やかな反骨クロニクル。

「史上、最も美しい犯罪芸術」といわれた快挙の顛末を
プティと共犯者たる友人、逮捕した警官たちの証言を元にした
ドキュメンタリー・フィルム。
2008年度アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞受賞作品。

読書会で、この出来事をベースにした
“Let the Great World Spin”を昨年読んでいた。
この映画のDVDを持っている友人を見つけ(Mくん、ありがとう!)、
すぐに集まれるメンバーだけで行った鑑賞会。

フランス人のプティ目線で綴られる70年代の
アメリカの風景。
よくぞ、という当時の映像が次々に登場。

犯罪であるどころか、プティの行状は偉業とされ、
ベトナム戦争、ウォーターゲート事件で疲弊していた
アメリカのひとびとに勇気を与えた。
犯行(?)に及ぶまでのプティの真摯な想い、
プティを支えようと集まった有志たち
("World Trade Center Association"のロゴが可愛い!)の綿密な準備。
仲間内の葛藤。
犯行当日の、息詰まるハプニング。
多くの幸運と機転に恵まれ、
8月7日の朝、プティは
最初の一歩をぴん、と張ったワイヤーの上に置く。
通勤時間のマンハッタンは、地上からは黒い点にしか見えない
ものの正体を知り、やがて騒然となる。

軽業師のエレガントなコスチュームで空中を歩き、
時に優雅に会釈をしたり、微笑んでいるプティの動きは、
ほとんど舞踏芸術である。

アメリカ人にとってWTCとは。
WTCのあった風景とは。
911で失った有形無形のアイコンとは。

この出来事に着想を得た"Let the Great World Spin”は
肩肘張らない佳品で、翻訳化を願いシノプシスを書いたけれども、
師匠にあえなく却下される。
いい作品だと思うから、日本で広く読まれてほしい。
私が直接訳せなくなって、もちろん構わない(英語がすごく難しい)。
シノプシスの書き方が悪かったのなら、書き直してでも
懲りずに企画をどこかで復活させたいのだけれど。


この日のメニュー:
“fantastic” banana/jaffa ice-coffee (オレンジピールがいい仕事をしている!)
イチジクと生ハムとペッパーサラミ、ハチミツがけ
カルボナーラ
ビル・グレンジャーのコーンスープ


Book Circle 議事録 番外編(\"Man on Wire\")_f0205860_747403.jpg




昨年の読書会"Let the Great World Spin"の記録 その1  その2
映画『Man on Wire』 



































マン・オン・ワイヤー スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]

紀伊國屋書店

スコア:


by office_bluemoon | 2011-08-22 07:59 | Book club 議事録