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『素数たちの孤独』 パオロ・ジョルダーノ

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まず、タイトルに惹かれた。
そして、英米文学と比べてあまり読む機会のない
イタリア文学、ということでの期待や
先入観にくすぐられるのも楽しみつつ、ページを開いた。


埋めるべくもない欠落感と疎外感を抱えたまま生きる
少年と少女が主人公。
マッティアは、過去、犯してしまったかもしれない罪におののき、
それを埋め合わせるかのように、数列に没頭する。
アリーチェは、片足が不自由になるのを防げたかもしれない事故の記憶と
コンプレックスからの逃げ方がわからず、拒食症とともにある青春時代を送る。
ふたりの周囲の家族や、友人たちも、
それぞれ、望みどおりにならなかった何かを解消しきれぬまま、
「ここにあったはずの何か」の幻影と寄り添いながら生きている。
助けを求め方も、他人にも優しくする手立てがわからない。

ひとはときとして、理不尽な行動をとる。
理不尽な行動をとる生き物は、そもそも人間だけだ。
切望していることに、まっすぐに手を伸ばせないし、
何年ものあいだ、感情を素直に表せないことがある。
血縁者、親子間だったら、なおさらのこと。
そんな断裂は埋まらぬまま、
時だけが無常に流れていく。

そして、ひとは認めたくないのだと思う。
自分の中にぽっかり空いた穴を、
誰かに埋めようとしてもらおうと期待して
やがて訪れる、幻滅を。
それでもまた、誰かに手を伸ばそうとしてしまい、
ひとりであることを思い知り、うずくまる。

お話の終わり方も、何かが解決したわけではない。
相手の孤独をわかろうとして、少しはなれたところで幸せを祈ることで、
自分が引き受けた孤独を忘れてしまえるかもしれない、と
距離を置いて、対になっているふたつの素数。

だけれど、この結末を
すっと受け入れることができたのは、
そもそも、すっきりと割り切れない、
思いを遂げるばかりが人生じゃないんだよね、という
共感が胸に優しく沸きあがったから。

ドライな文体で訳文もすっきりとして読みやすい。
実は物理学者である、この作者の他の作品も読みたくなった。
原文にも興味がある。

イタリア文学最高峰の文学賞、ストレーガ賞を2008年に受賞。
(ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』などもその名を連ねる)
30か国語に翻訳、40数か国で出版され、
映画化も決定しているとのこと。


(2012-B10-0229 )































素数たちの孤独(ハヤカワepiブック・プラネット)

パオロ・ジョルダーノ / 早川書房

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by office_bluemoon | 2012-03-02 12:56 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)