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"The Long Goodbye"から - 5

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前掲“dream”のくだり、「夢の女」、という処理でよいのか、と
逡巡からその後も逃れられなかった。
先日の部分から少し進めて読んでも、
依然としてチャンドラーは”dream”を使い、
”dream girl”や、”dream woman”とは決して言っていない。
この点を尊重して、また、不定冠詞"a"に注目して
やはり「まぼろし」、でいい、と覚悟を決める。

修正。

bluemoon訳:
年配のバーテンダーがそばを通りかかり、薄くなった私のスコッチの水割りに
そっと目を向けた。
私が首を振り、彼が白くふさふさとした頭を軽く下げたちょうどそのとき、
ひとつのまぼろしがバーの入り口に立ち現れた。

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***

これを踏まえて、続きの場面。世の中にはいろいろなタイプのブロンドがいる、と列挙する
痛烈でクールなメタファー(比喩)に続く、こんな独白。

The dream across the way was none of these, not even of that kind of world. She
was unclassifiable, as remote and clear as mountain water, as elusive as its color.
I was still staring when a voice close to my elbow said:


清水俊二訳:
向こうの端の”夢の女”はこれらのどの種類の金髪でもなかった。山にわきでる泉のように澄んでいながら、
その色のようにとらえどころがなく、分類することがむずかしかった。私のひじのすぐそばで私の呼びかける
声が聞こえたとき、私はまだ女の方を見つめていた。

村上春樹訳:
私の筋向いに座っているその夢のごとき女は、どのタイプとも違っている。それらの女たちが属してる
世界とは、世界の成り立ちそのものが違っていた。彼女を分類することは不可能だ。彼女は山間の清水の
ように遥か遠くにあり、クリアだ。そしてその髪の色合いと同様に捉えがたい。すぐそばで
声が聞こえたときにも、私はまだそちらに見とれていた。

Office_bluemoon訳:
いま、通路の向こう側にいるまぼろしは、このどれとも、世界中のどの金髪とも違っていた。
どんなタイプにもあてはまらない、湧き水のように気高くて透明感があるが、髪の色同様、とらえどころの
ない女だった。私のほうに身を寄せて話しかける声が聞こえるまで、私は彼女から目をそらすことが
できずにいた。


***

この時点で相当疲れ果てていたマーロウが
これほどうろたえる、というのは
どれだけの美女なのだろう、と読者も固唾をのむ、

本作品のハイライトのひとつ。
無造作な箇所などひとつもない、
精緻で美しいシーン。
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by office_bluemoon | 2012-10-10 11:59 | 翻訳シャドーボクシング(試訳)