office bluemoon

reboot

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朝、スマホが動かなくなっていた。

バックアップしなきゃね、と昨日もちらりと考えたのに、
時間もあったのに、
何もしなかったことを悔やんだ。メール。住所録。
思い出の写真……。取り返しのつかないもの、つくもの、を数え上げて、
たいしたことない、と思い込もうとしたけれど、無理だった。
時を昨日に戻せたら、と悔いた。たかだかこんな手のひらサイズのものに
朝から心乱されていることも、情けなかった。修理だか、交換だかが滞りなく
終わるまでの不自由を考えると、頭を抱えたくなった。
今日の予定が狂ってしまう。指先が冷たくなってきた。

スマホショップの開店まで3時間以上ある。いったん、考えるのはやめよう、と
電池をはずした。
暗い気持ちを振り払って顔を洗って、紅茶を淹れた。
未練がましく
スマホを取り上げ、電池を戻してふたたび電源を入れてみた。
今度は起動のフォーン、という音が鳴った。
天を仰いだ。
「たすかった!」と、叫びたいほどだった。心に光が差した。
いつもどおりの朝をはじめよう、と
カーテンを開け、ラジオのスイッチを入れた。いつもの朝番組が聞こえてきた。
防災を、ということばが耳に入った。

忘れていた。そう、18年前の今朝、神戸で地震があった。つい10日前まで、
家族で集まっていた場所の変わりようを映像で見せ付けられる、初めての体験だった。

湯気の立つマグカップを両手で握った。この18年の間に体験した、
そのことを境に世界が今までどおりでなくってしまった、時を戻せれば、と
心から願った大きなこと、よしなしごとの数々を思い浮かべた。
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by office_bluemoon | 2013-01-17 10:58 | ほんの習作(掌編・エッセイ他)