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イタリア本続き

『イタリア人と日本人、どっちがバカ?』 ファブリツィオ・グラセッリ 

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政治や歴史的背景を知らないと理解できないことがある。
北と南の経済格差、EUの中で置かれた立場、今年の総選挙でなぜまた
汚点と疑惑だらけのベルルスコーニが出馬し、かつ、支持されたのか。
こうした疑問に、この一冊は手軽に答えてくれる。
ぎょっとするタイトルだが、内容ははるかに真面目。

著者は在日20年の建築家。ダンテ・アリギエーリ協会東京支部会長。
最終章の、日本とイタリアの未来を憂慮し、警鐘をならす言葉には、
熱い愛がある。欧米・西側諸国、とひとことでくくってしまうのではなく、
アメリカから流れてくる情報だけを世界基準だと鵜呑みにし、
思考を放棄するのはもうやめなければいけない。

《どんなに理解するのが難しいことでも、それを自分自身の力で学び、
わかろうとすることを決してやめてはならない》 アントニオ・グラムシ(思想家)


『シモネッタのドラゴン姥桜』 田丸 公美子 
『シモネッタの男と女』 田丸 公美子 

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どちらも、「シモネッタの」と枕詞をつけないほうがよかったのではないか。
これまでの作品とは、トーンと立ち位置が異なるエッセイ集2冊。

「姥桜」は、ひとり息子さんの成長を追った、母としての記録。
開成から東大法学部。在学中最年少で(旧)司法試験に合格、
東大を主席で卒業、というわが子の話を書くのは自慢にほかならないのだけれど、
病気や、両親の老い、仕事との両立、など、つらい局面を
笑いでさらりと切り抜けるユーモアが、嫌味になるところを救っているのは、さすが。
こんな母親に育てられた息子さんの切り返しも、異彩を放つ。

司法修習生になり、一人暮らしをはじめ、彼女が優先になって、
実家には寄り付かなくなった息子への手紙。宿屋のおかみになぞらえたこんな文面。

《拝啓、ますますご清祥のことと御慶び申し上げます。
さて、今年も夏期ハイシーズンに入り、当旅館の残室も一室となりました。
当期間中、料金5割増しのところ、御客様に限り、特別に通常通りの価格でお受けします。
ご宿泊、ご夕食など、お早目のご予約を切にお待ちいたしております。》

息子さんより。
《今週末は、入浴、休憩のみということにさせて頂きますので、悪しからず》

『男と女』のほうは、これまでシモネッタエッセイを飾ってきた日伊の登場人物ひとりひとりに
スポットを当てた構成。今回、イタリア男性が嫉妬するほどの
美女遍歴で名を馳せたミラノ在住の日本人、シモネッタエッセイの登場人物の常連でもある
ウタマロ氏に、初めて面会。
名うての色男に会えることに浮き足立っているようでいて、
男性の価値についての本質を冷静に
見極めている。
どんより冴えない色に煙る東京の空もようをさらりと描写することで、
そのときの著者の落胆を投影させているところが、またうまい。
その客観性は、盟友、米原万理さんとの別れを描いた章で、
あられもなく崩れている。シモネッタらしからぬ、悔恨。心からの叫び。
この最終章だけは、早く読み進めることができず、
いつまでも胸に残る深い余韻を残した。


『ジーノの家』 内田 洋子 

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日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を、史上初、ダブル受賞した作品。
イタリアの名も無き人々のものがたり十篇。イタリア在住三十年余という著者の目を通すと、
人情味という点では、イタリアと日本はそれほどかけ離れていないのかもしれない、と思えてくる。
この作品でも、語られないことの中にこそ、深い感情が埋め込まれている。

語るべきこと、敢えて語らないこと、の美学のようなものがあるのだと思う。
軸がブレない書き手だと感服。
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by office_bluemoon | 2013-03-28 08:58 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)