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山間の集落で。

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過疎化のすすむ秩父の栃本集落というところに、
ご縁あって、芋ほりのお手伝いに。

長袖、長靴、軍手、手ぬぐいほおかむり、で。
甲子園球児もかくや、といういでたちでの斜面の作業、地面から湯気が立って見えた。
この夏一番暑かった。

水をいくら飲んでも、汗になってしまう。
塩分が失われる。だから、
一人暮らしのおばあちゃんが土間にいそいそと出してくれた、
麦茶と、茹でただけのキタアカリ、紫芋煮転がし、
手作りみそをつけて食べるきゅうりのおいしかったこと。

こういった集落、古くからのいとなみを絶やすまい、とする、取り組みは、
効率性を重んじる世の流れからいったらまったくもって
逆行しているのだけれど。

そんなの関係ない、と、
「一所懸命」にこの土地に住み続ける人、ここをしげく訪れる人、移住する人。
心の声に従って、すべきことを黙々と続けている人がいる。


芋掘り隊到着を楽しみに待つおばあちゃんの、
一年分を一気に話そうとするかのようなとりとめもない話。
この集落に惚れ込み、とうとう民家を買い取り、
自分の家の真裏に引っ越してきてくれる若者の名前を、
女子高生が好きな男の子のことを話すときのように、
熱っぽく繰り返す。
Yくんがこないだ老人会でね、Yくんがあたしの誕生日にね、
Yくんがあたしの作ったお手玉を配ってくれてね。
大事そうに写真を取り出して、説明してくれる。
当のYくんは、居間のコタツに座り込んで、うんうん、とうなずきながら、
芋をほおばっている。

このおばあちゃんの話をはしょることなく、心から向き合って、
あいずちをうつリーダーのものごしにも、胸を打たれた。


要領の悪いこと、割の合わないことうまく避けていきるのが勝ち組、だなんて
どこで刷り込まれてしまったのだろう。

常日頃いそがしがってばかりいて、
人の話を、気をそらさないでちゃんと最後まで傾聴する姿勢、しばらくおろそかにしていたと思った。
こざかしく「ポイントを押さえる」、「かいつまむ」、「はしょる」、ことばかりに
血道をあげてきた自分がすごくみすぼらしく思えてきた。

人としてどうか、幸せか、を選べばよいだけなのに。
時間の奴隷になっていた。感情も押し殺してた。



道を歩いていて話しかけるだけで、知らない人がキュウリをもいで分けてくれる。
道の駅でちょっとものを尋ねても、切ったキュウリを出してくれる。
カッパの呪いか!と思うくらい、キュウリが出てくる。

セミの声、鍬の手ごたえ、土のにおい、
斜面越しにこちらを呼ぶおばあちゃんの声。
畑の脇をながれる川のせせらぎ。風にそよぐ、名も知らぬ花。
それと、この日食べたキュウリ、10本は軽く超える。
by office_bluemoon | 2015-07-31 14:14 | ほんの習作(掌編・エッセイ他)