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Reading All Around the World ― 読書で旅する世界 2015 第4四半期

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英語または日本語に訳された世界文学でわたる時空旅行。
Reading All Around the World の2015年第4四半期、記録を遅まきながら。
9月~12月は仕事の繁忙期と重なって、あまり読書できず。かろうじて、5冊。


#14 Lowland  Jhumpa Lahiri (アメリカ/インド)
抑制が効きながらなお、情感匂い立つラヒリ節を存分に味わえる大河小説。
カルカッタから物語は始まる。ウダヤンは政治活動に身を投じ、インド政府当局に追われる身。
革命を夢見、ボヘミアンの理想に燃えた青春を謳歌するが、とうとう当局に居場所をつきとめられ、
家から引きずり出されて妻ガウリと両親の目の前で射殺される。ウダヤンと双子のように
仲良く育った兄、スバシュはよるべのなくなったガウリを救おうとして、ガウリを妻にする決意を固め、
自分が学者として根を下ろしつつあるアメリカに連れ出す。
ガウリは新天地でウダヤンの子ベラを生む。

登場人物の誰ひとりとして、無情なわけではない。むしろ、愛に忠実に生きたはずなのに、
何かを喪失し、声なき悲鳴をあげ続けるが、その欠落感はついぞ埋められない。それぞれの場所で
信念を貫こうとして誰かを傷つけてしまう。
異文化や異なる価値観のはざまでアイデンティティーに葛藤する者の道行きを描かせたら今、
当代髄一、と思えるのがこのジュンパ・ラヒリ。

#15 『カモメに飛ぶことを教えた猫』 ルイス・セプルベダ(チリ) 
読書会の課題図書で手にする。獄中生活も経験した社会活動家、という肩書から受ける印象を
見事に裏切る、ほのぼのとしたファンタジー。いきがかりから、カモメを育てることになる黒猫ゾルバ、
そして、ゾルバをとりまく登場人物のてんやわんやがほほえましい。とはいえ、セプルベダが
世界で愛される作家、といわしめるにはこの作品だけではパンチ不足な感が。ほかの、いくつかの
作品もまた読んでみなければ。

#16 『アメリカにいる、きみ』 C・N・アディーチェ(ナイジェリア)
アフリカ圏の作家は初めてかもしれない。日常の中にするりと織り込まれている差別、戦争、民族抗争。
残酷なむき出しの現実。母親がキッチンでスープを作っている間にクーデターが起こる。続きはあとでまた作ればよい、とちょっと家を不在にするつもりで一家は家を離れるが、そこから、流浪の避難生活が始まる、といった調子で、日常の生活がいとも簡単に崩れてしまう。語り口の明るさゆえに、リアリティの諸行無常さがずしん、とくる。

#17 『太平洋 モーム短編集II』 ウィリアム・サマセット・モーム (イギリス/南太平洋の島々)
表題作は1ページ強。それでも、陽光溢れる楽園、海の薫りを想起させる、選りすぐられたクリスプな
言葉が流麗な詩のよう。各種レビューでも書かれているのだが、翻訳が素晴らしい。特に、会話文。
日本語の古さを感じさせないのは、なぜだろう。

#18 『みんなバーに帰る』 パトリック・デウィット(アメリカ)
書店のPOP、≪泥酔文学≫という文字につられて、手に取る。確かに、呆れるほど酒に呑まれて
救いようがない主人公。ただし、この作品で括目すべきは、≪君は≫、で始まる二人称の話法と、構成。
主人公の務めるバーに現れる人物にまつわるエピソードがいくつもさしはさまれ、相関関係が、
時系列も時折シャッフルし、読んでいる方もそれこそ酩酊しそうになるがちゃんと、ひとつの結末に
向かいながらストーリーが運ばれていく。ろくでなしが主人公の小説を読んでいると
どうしても湧き上がる嫌悪感を、この見事な構成と、理知的といってもいい
クールな話法がぱしっと打ち消してくれている。むしろ、読後はあっぱれ感すら。


ここまでのルートはドイツ→オーストラリア/インド→イタリア→アフガニスタン→イタリア→中国→
アメリカ(ロシア?)。これに続けて、アメリカ(インド)→チリ→ナイジェリア→
イギリス(南太平洋の島々)→アメリカ。2015年はここまで。2016年はどこまでいけるか。
by office_bluemoon | 2016-01-02 14:04 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)