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2015年読書総括

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118冊読了。
世界文学を追う、Reading All Around the World 2015、は、8か国。

昨年と同じように、カテゴリ別ベストを。

【ノンフィクション部門】 
『ならずものの経済学』 ロレッタ・ナポリオーニ
(第4四半期に紹介した記事はこちら
コメント:イスラム国関連の気をふさがせるようなニュースが連日続いた頃に、読む。
著者はイタリア生まれの経済学者。世界の暗黒組織の趨勢を説く。
少し前の本なので情報がやや古いが、犯罪のグローバル化を
知っておくことがひいては、みずからの身を守ることになる。

【フィクション部門 短編・中編・長編】
『猫の客』 平出 隆
コメント:猫と物書きである自分と日常、を書いた作品、世に数ある中でも秀逸。
猫への愛におぼれず、むしろ淡々と理知的に日常を描いているがゆえに、
不在の穴は深く、底知れず暗い。

『ロゴスの市』 乙川 優三郎
コメント:私はこの本を一生好きでい続けるだろう。
英語翻訳者である主人公と、英語通訳者になった女主人公の
学生時代から物語は始まる。
外国語と日本語を橋渡しする、という役割は同じだが、翻訳者と通訳者とでは
それぞれが背負う業(ごう)や矜持のようなものは、大きく異なる。

つましい生活の中で、しっくりとくる言葉を探り当てていく翻訳者のよるべのなさ。
浮世離れした、隠者のような生活。翻訳者が常に抱いている、こんな生活でいいのか、という
もどかしさをよくぞ言葉にしてくれた、と唸る。
呻吟し、言葉を練りに練って絞り出し、再構成し、磨き上げていく翻訳者。
瞬時に最適の言葉をしゃべり手のスピードにあわせて遅滞なく紡いでいく通訳者。
ことばのしもべとなった二人。しかし、同じしもべでも、辿る運命は大きく分かれていく。

作家と翻訳者、そして作品と編集者との幸福な出会い。一冊の洋書が見いだされ、
日本語の訳書が誕生するまでに介在する人の綾。
いずれのエピソードも無理がないし、一冊の洋書とこういう出会いかたをしてみたいものだと
翻訳者のはしくれとして夢想する。
この本はこの先幾度も、読み返すことになるはず。

『自由生活』 ハ・ジン
(第4四半期に紹介した記事はこちら
コメント:国を捨て、異文化の中でアイデンティティの葛藤を味わいながら成長する物語が好きだ。
その中でも、中国バックグラウンドの主人公の作品は、久しぶり。上下巻、
一気に読ませるヒットだった。人種的マイノリティー、言語のハンディ、学歴があっても肉体労働に
甘んじざるを得ない、という状況の中なおも、文学、それも英語で詩を書いて身を立てようとする
主人公がただただ、まぶしい。

【エッセイ部門 海外・日本】
『別の言葉で』 ジュンパ・ラヒリ
コメント:この先おそらく一生好きでい続けられる本を嬉しいことに、昨年はもう一冊見つけた。
アメリカで、そして日本でもすでにベストセラー作家としてゆるがぬ地位を確立している
ジュンパ・ラヒリがイタリアに移住する。その地に根をおろし、第二の外国語であるイタリア語で敢えて
創作活動を始めたその第一作(したがって、原作はイタリア語)。
好き、に理由などなく、ただ惚れてしまった言語。その言語に向き合った時の憧れ、衒い、
思うに任せない焦り。こうしたおぼつかない心の揺れが、流ちょうな母国語を介さずに、
学びたての言葉で書かれている。直球で、純情なラブレターのように初々しく、
切実に読む者に響く。
やはりイタリア語の河を渡ろうとしている者にとっては、冬の北斗七星のような道しるべの書に。

『小津好み』 中野 翠
コメント:小津の初期の映画を何本かまとめて観る機会を得、この秋、小津調のものに
すっかりかぶれていた。その指南本として手に取った。女性目線でとらえた部屋のしつらえ、
女性の装い、言葉遣い、でひもとく本書は小津映画初心者にも、親しみやすい。
まだついそこにあるように思えてならない
昭和へのノスタルジアをいやがおうでも掻き立てられた。

【ノウハウ本】
『生きる技法』 安富 歩
コメント:「恐怖や不安にとらわれず、その人がその人らしくある姿は美しい。だから日本には
美しい子供がほとんどいなくなった」という趣旨のことをこの人がラジオでしゃべっているのを
小耳にはさみ、興味を持った。
≪自立とは多くの人に依存することである≫から始まる命題を端緒に展開し、
最終命題15≪成長は、願うことで実現される≫にまでもっていく水も漏らさぬロジックはみごと。
元気が出た。

【紀行本】
『若山牧水 伊豆・箱根紀行』 
酒と旅を愛した牧水の足跡をたどる本。この本を片手に、数回にわたって、
小田原から西伊豆各地を昨年何度も訪れ、牧水を想った。土地を通して人を知る旅がある。
この先もそんな旅を続けたい。

【洋書】
Lowland Jhumpa Lahiri
(第4四半期に紹介した記事はこちら
コメント:理路整然としていて、ごてごてとした飾りの一切のない文章だからこそ伝わる、
そこはかとない心のふるえ。ラヒリのそんな文章が好きだ。ハ・ジンの作品にも通底する、
アメリカ移住者ゆえの、アイデンティティの危機。ジェネレーションの断絶。生まれた場所ではない
文化圏で歳をとっていくとはどういうことか。だからこそ、の、家族の結びつき。
家族でありながら、わかろうとしてもわかり得ないとわかったときの孤絶感は、
日本に生まれぬくぬく育った者にははかり知れないはず。


【2016年の読書目標】
2015年は、サイエンス本が少なかった。読まねばリストにあるものを、
2016年にはちゃんと消化すること。
100冊クリア、そして、海外文学10カ国以上、を目指したい。



写真は年末に旅行で訪れたとある宿の図書室。
建築や日本美術、食文化や松岡正剛氏の本のコレクションが特に多く、
もうなくなってしまった
丸善・松丸本舗が思い出されて。逗留客がほかに誰も訪れないのをいいことに、
何冊も取り出して目の前に積み上げ、何時間もここにこもっていた。

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by office_bluemoon | 2016-01-09 16:39 | こんなもの、読んだ(本・雑誌)