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サマセット・モームのアスパラガス

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幼いころに読んだサマセット・モームの『ランチ(原題 Luncheon)』という短編に、
アスパラガスが登場する。
懐を気にする貧乏作家の目の前で、キャビアだの、サーモンだのを注文するレディが
とどめに頼んだのは、高価で、立派なアスパラガス。
私が読んだバージョンではこれを、ホワイトアスパラガス、と書いていたと記憶する。
ホワイトアスパラ、といわれても、私が子供の頃はまだ緑色のラベルの缶詰しか出回っていないし、
それしか食べたことがない。


白ワインをお供にアスパラをフォークとナイフで切り分けるレディ。
自分が奢らされる金額を想像した貧乏作家が、気絶しそうになるくだりがあった。

でも、そのホワイトアスパラ、憎たらしいほど美味しそうだった。


この刷り込みがあって、かねてからぜひやってみたかった。
ちょっとスノッブな白ワインとホワイトアスパラ尽くし。

というわけで、友人の企画したホワイトアスパラとオーストリアワインの
試飲会のお誘いに二つ返事で飛びついた。


この日のために180本仕込んだ、というシェフ渾身の
ホワイトアスパラガス料理。これを着席でいただきながら、
泡・白・赤の計10種類を試飲。

たまたま同席となった方がまたお優しく、不調法な者にもわかるように手ほどきをしてくださったので、
新たに口に含むたびに広がる味わいを、それぞれの言葉で語るのも底抜けに愉しく。

専門用語オタクとしては、渡されたワインメモにある「ほのかにタバコの香り」とか、
「バランスの良さと余韻の長さ」とか、
「洗練とボディを兼ね備えた」などというワインならではの語彙にしびれる。
読んでいるだけで眩暈がしてくるほど胸躍る。


同じ白アスパラが、いわゆるワインとのマリアージュによって飛び跳ねたり、
まったりと寝そべったり、はんなりとしたり。
名舞台俳優さながら、のドラマチックな変化を堪能。

ところで冒頭のモームの短編にはそのランチから20年後、のオチがある。
そんなレディの二の舞になってなるものか、と心に誓いつつも、
子どもの頃の憧れをこんな酔狂な集まりで、
丁寧に、美味しく、楽しく満たすことができて心から嬉しかった。






































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by office_bluemoon | 2016-05-30 19:07 | はらぺこの記憶(食べ物)